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第45話

「リョク!……ってことは」 ピンと来たアツシはそのままリョクの後ろへと視線を辿る。 「よぉ!アッシュ!」 「……いらっしゃいシキさん」 予想通りの人物を見つけてアツシは思わず曖昧な笑みを浮かべた。 そ ひょいと片手を上げて立っていたのは|東雲《しののめ》|志貴《しき》さん。ロイさんの友人でリョクの上司でもある人だ。 短くした髪も右側にワンポイントのように伸ばされたフェイスラインの髪も、端に行くにつれやや紫がかっている。 顔つきは爬虫類顔とでも言うのだろうか。 一見すると少し怖いが本人自体は至って気さくないい人である。一点を除けば、だが。 「久しぶりだなぁ!いい加減童貞卒業出来たか?ん?なんなら今からでも紹介するぞ」 これだ。会えばほぼ確実にこんな調子なのでアツシはどうもこのシキさんという人が苦手だった。 とはいえ、根っからの悪い人でもない。その証拠にリョクが仕事の相棒として一緒に働いている。 彼らは所謂何でも屋のようなものを営んでいるそうだ。どちらかというと人間関係の相談が多いと聞くが、その辺のことはあまり詳しくない。 リョクは守秘義務があるとかであまり話したがらないし、ロイさんも深くは教えてくれない。 あまり危ない事に首を突っ込んでいなければいいのだけれど。 「ちょっとシキさん!!アッシュに変な事言わないで下さい!!」 ニヤニヤと笑うシキさんの隣でリョクが目を釣り上げて怒るが、当の本人はどこ吹く風だ。 毎度のことなので知らないフリをしているらしい。 「……お久しぶりですシキさん」 お客を立ったままにさせてはロイさんに怒られる。 とにかく今は案内が先だと気持ちを切り替えた。 「こちらへどうぞ」 店の奥にはロイさんのお客用のVIPルームが用意されており、シキさんが来た時は必ずそこへと通す事になっている。 ここに入れる条件は一つだけ。 ロイさんにとって有益かどうか。 ここに入れる人は数えるだけなのでロイさんのオトモダチというだけでは入れない。 シキさんの場合は色々裏の事にも詳しいので情報通ということでここに入ることが出来るらしい。 まぁ、あとは単に友人関係だからというのもあるだろう。 2人とも否定するけれどどう見ても仲良くつるんでいるようにしか見えない。 アツシとリョクのような親友ではなく、彼らを表すならば悪友という言葉が良く似合う。 2人揃って顔を突合せている時は大抵よからぬ事を企んでいる時だ。 ……今日がそういった日でないことを祈ろう。 VIPルームへ続く廊下は他の客が入らないようスタッフオンリーのタグが貼ってある。 その扉の奥へと入っていくと在庫が置いてある納品庫の手前に重い扉が鎮座している。 そこがロイさん専用のVIPルームになっているのだ。 基本古株組であるシマさんやマキさん、それからアツシ以外は入れないのでここへの案内は大抵アツシの役目だった。 「どうぞ」 「おー、サンキュー」 勝手知ったる何とやら。 シキさんは大きなソファ席にまっすぐ向かうと足を組んで座った。ロイさんとちょうど同じ身長の彼はやはり足が長く、組んで座っているだけだというのにとても絵になる。 少しツリ目気味な双眸はロイさんとはまた違ったミステリアスさを持っている。 リョクはというと、シキさんの隣には座らず向かいの席へと座るのが恒例だった。 それはを見届けるとアツシはいつも通りお酒の準備を始めることにする。 シキさんはボトルをキープしているので大抵キープのものといくつか気分によって選んだお酒を用意するのだ。 「お待たせしたね」 準備をしているうちにロイさんがやってきたのでツマミとリョク用の飲み物を持ってくることにした。 リョクは基本的にここでお酒を飲むことは無い。 別に飲めない訳では無いが、家以外では気を張ってしまうからだろう。 シキさんとロイさんの2人でしか話せない内容の時にはリョクが早々に退散するので今日は大丈夫らしい。 そしてそんな時はリョクの相手をすることがアツシの仕事だった。 元々友人関係だから話が出来るようロイさんも気を使って仕事を回してくれているんだろうと思う。 ――そういう所は意外と優しいんだよね。 「どうぞ」 「ありがとうございます」 リョクにコーヒーを出しながら自分も隣に並んで座る。 「リョク、この前はありがとう。忙しそうだったけど大丈夫?」 「良いんですよ。まぁ誰かさんのせいで忙しいのは相変わらずですね。でも健康そのものですよ」 誰かさんのところでリョクはシキさんの方を睨みつける。どうやらあの後も色々あったらしい。 「ははは……そっか」 思わず苦笑いが出たのは許して欲しい。 とはいえ、こんな調子ではあるが2人はなんだかんだ一緒に仕事を始めて大分経っている。 アツシが高校卒業と同時にロイさんの所に就職したように、リョクもシキさんの所へ就職したのだ。 かれこれ6年近くは経っているだろうか? コーヒーに口をつけたリョクは思いついたようにこちらを見やった。

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