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第48話

「悪いね急に呼び出して」 「いえ、大丈夫です」 とろりと綻ぶような笑顔で見上げるリュウさんの視線は明らかにアツシへ向けていた視線とは雲泥の差がある。 それににこやかな対応を返すロイさんにもモヤモヤしたものを感じでアツシは咄嗟に視線を逸らした。 ――呼び捨て……。 アツシよりロイさんと付き合いが長い彼はもうずっと昔から、それこそ初めて出会った時から名前で呼ばれている。 なんで今更になってそんなことが引っかかるのだろうか。 アツシは自分の気持ちに違和感を感じて内心で首を傾げた。 ――なんでこんなにもやもやするんだろう。 「アッシュ君、キープボトル持ってきてくれる?」 「え!あ、はい」 つい考え込んでいたアツシはロイさんに頼まれで慌てて我に返った。 後ろを向く瞬間、確かにリュウさんの鋭い眼差しを感じてアツシは逃げるようにして外へと出る。 扉の外へ出た途端、小さなため息が思わずついて出る。 「なんか、おかしい……」 リュウさんに会うのも、彼を接客するロイさんを見るの初めての事じゃない。 なのにこんなこと思うのは初めてだ。 ――名前を呼ばれるのが羨ましい、だなんて。 その後のことはあまり覚えていない。 ただひたすら注文を受けて料理を運んで、気がついたら閉店の時間になっていた。 こんなにぼんやりしたまま仕事をしたのは初めてだ。 「はぁ……」 注文は間違えるしお皿は落とすしと、今日は散々だった。 今までだってあんな感じだったんだから彼らが何か変わったわけじゃない。 変わったとしたらアツシ自身なのだろう。 ただ、その理由がアツシには分からなかった。 ――あの2人は、どういう関係なんだろう。 昔まだバイトをしていた学生の頃、ロイさんに尋ねた時は「オトモダチ」とだけ言われた。 それまで色んなロイさんのオトモダチとやらを見てきたのでその時はこの人もそうなのか、と思うだけだったが今は気になって仕方ない。 ――なんでこんなに気にしてるんだ。 お腹の上方、胃より少し上の辺りがぐるぐると重だるい。 それでいてツキツキと痛みを感じる気がして思わずその辺りを抑えた。 もやもやする理由は分からない。分からないが、深く考えるのがなんだか怖い。 自分の感情なのにそんなことを思うのはおかしいのかもしれないが、何となく深く追求してはいけない気がした。 「……早くゴミ捨てて帰ろ」 ガサガサと音を立てるゴミ袋をいつものゴミ捨て場へと捨てる。 ここはゴミが目に付くのを嫌がってロイさんがボックスを置いてくれたのでいつでも捨てることが出来る。 これを捨てて、ボードを片付ければ今日の仕事はお終いだ。 明日も仕事だし、今日は何も考えないでゆっくり寝よう。 寝たらきっと全部忘れられる。 それでも胃がムカムカするような不安に似た気持ちは晴れなくて、モヤモヤしたままお店へと帰ろうとすると突然人影が動いた。 「あ、あの……っ!」 「ひ……っ!」 まさか人がいるとは思わず声にならない悲鳴が口をついて出る。 ――び、びっくりした……っ!! ドッドッドッ、と心臓がうるさく音を立てる。 「す、すみません……びっくりさせるつもりはなくて」 「いえ……」 アツシは改めて声をかけてきた男性を見やった。 割とどこにでも居そうな黒髪だが、後ろが短く刈り上げられており爽やかな好青年といった風合いだ。 体格がいいのでもしかしたらスポーツでもやっているのかもしれない。 確か今日来ていたお客さんだ。 やたらと呼び止められて注文をお願いされたのを覚えている。 「あの、なんでしょうか?」 「……えっと、……その、」 下を向き、モゴモゴと言葉を濁す相手方に首を傾げる。 「俺、アッシュくんの事がずっと気になってて……!」 ――ん?! 「是非お付き合いして欲しいんだ!!」 「や、あの……」 そういうのはちょっと、と手で制すが代わりにがしりと手を取られ更に詰め寄られる。 あれ、なんか|既視感《デジャヴ》を感じる。 そもそもお店で最近見かけはするが殆ど話したことも無い人だ。それで好きだなんだと言われても正直困ってしまう。 「お試しでもいいんで!」 「や、だから……そういうのは無理……っわ、」 随分と性急な人だ。少し怖い。 ずいっと距離を詰められるのに合わせ慌てて後ろに下がると、石か何かを踏んづけて足首が変な方向へカクンと曲がる。 あ、と思った時には後ろへ身体が傾いでいた。 相手もそれに驚いたらしく、びっくりした表情で慌てて腕を引きアツシを抱きすくめる。 「す、すみません……」 ダメだもう今日ボロボロだな、とアツシは小さくため息を吐いた。 お皿は割るし転ぶし足は痛いし――あの二人のことが頭から離れないし。 無意識に手の中で掴んだシャツを握りしめた。 ――はやくかえりたい。 だから早く断って早く帰ろう。 近づきすぎた距離を元に戻そうと相手の腕を押すがピクリとも動かず、そこでようやくアツシは顔を上げる。 「アッシュさん……もしかして誘ってくれてます?嬉しいです……」 「え?!や、違……っ、」 真っ赤に興奮した顔で熱っぽく見つめられ一気に指先が冷えた。

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