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第57話
「リョクにも言われました。勿論、何かあれば相談します」
「そうかそうか!なら安心だな」
「……あの、ありがとうございます」
思っていた以上に優しくされて肩の力が抜けた。
普段あまり関わりがない分弱音を吐きやすかったというのもあるのだろう。
「気にすんなって!」
アツシの返答に満足したのかシキさんは口を開けて笑った。何だか今まで気が引けてたのが悪いくらいだ。
「あそうそう忘れるとこだった!」
そう言って持ってきていた荷物を漁るとシキさんは紙袋にごとアツシへと差し出した。
「ほい、プレゼント」
「へ……?」
突然の事に驚いて思わず受け取ってしまう。
一体何かと思って覗き込めばどぎついピンクの箱が見えた。
――何これ?
見慣れない色に思考が奪われるがよくよくみれば箱には「バイブ」の文字が見える。
「ば……っ!!!」
一体なんて物渡してくるんだ……!!!
真っ赤になって睨むがシキさんは慌てて手を横に振る。
「待て待て待て!違うからな!つーか普通に必要になるから!オメガのヒートは自分じゃどうしようもないんだよ。嫌でも分かるようになるから、それまでタンスの奥にでもしまっとけ」
そう言われるとさっき慰めてくれたのも相俟ってちょっと断りにくい。
いやだからってなんで今、とは思うがリョクがいない時に渡される辺り配慮してくれたのだろうか。
暫くわなわなと震えていたがシキさんが素知らぬ顔を突き通したのでアツシは渋々受け取った。
と同時にちょうどロイさんの方も先生との話が終わったらしい。ちょいちょいと先生に手招きされたので2人は寝室へと戻ることにした。
「……特に異常はないです。よく寝て、よく休んで」
つまり、寝不足なだけだということだ。
「……良かった」
大丈夫だと思っていても心配になってしまう。
ほっと息を吐き出すと胸をなで下ろした。
「手の傷も順調だから、もう保護しなくても大丈夫」
「よかった!」
言われてみてみればさっきまでしてあった包帯が外れている。いつ治るのかとヒヤヒヤしていただけにお墨付きをもらって安心した。
「ありがとうございました」
「ん、」
コクリと頷くと先生はアツシの頭をポンポンと優しく撫でる。
アツシと比べても先生の頭は10センチ以上上にある。背が高いせいかなかなか頭を撫でられる事がないので何だか子供にでも戻ったみたいだ。
なんて思ってたいたら、後ろからグイッと腕を引かれてアツシはバランスを崩して後ろへと倒れ込んだ。
転ぶと思いとっさに身を固くするが柔らかな感触に受け止められる。ロイさんだ。
後ろから腰へと腕を回され動揺からビクリと肩が跳ねた。
「ロイさん?……ちょ、あの」
声を掛けてもロイさんは動かない。むしろ腕の拘束がキツくなった。
腰に抱きついているせいで表情は見えない。
目の当たりにした先生はというと、キョトンとした顔で何度も瞬きを繰り返している。
「ロイさーん……?」
困ってシキさんの方を振り返るとニヤニヤしながら楽しそうにこちらの様子を観察していた。
ダメだ……!あの人、助けてくれる気がない。
むしろどうするのかと面白そうに問う視線を投げ掛けられる。
どうと言われても困る。
むしろどうしたらいいんだろうか。
ほんの少し身動ぎしただけで嫌がるように引き戻されるのだ。
そしてはたと今の状況を端的に考えて頬が熱くなってきた。
アツシがわたわたと慌てているとそれまで黙って見ていた先生が口を開く。
「……あとはゆっくり寝かせて」
「あ、はい……」
どうやら帰るらしく玄関の方へと向かっていく。玄関まで見送りたいがロイさんが離してくれないので動くに動けない。
くるりと向きを変えた先生に習ってシキさんも片手をあげた。
「んじゃま、アッシュ。あと頼んだぜー」
明らかに腕の拘束を見てシキさんがニヤつく。
「シキさん!」
「はっはっはっ!!んじゃ、また近いうちに寄るわー!ロイ、ちゃんと寝ろよー?」
恥ずかしさから思わず名前を呼ぶと腹を抱えて笑われた。
後ろ手にヒラヒラと手を振りながらシキさんも部屋を出ていく。
「もー、何なんですか……」
思わず疲れて脱力すると急に拘束が取れた。
ロイさんの方を振り返ろうとするがその前に手首を掴まれグイグイと引っ張られる。
「ちょ、今度は何ですか……?!」
急なことに対応しきれず素っ頓狂な声を上げるが相変わらずロイさんは無言のままだ。
そのままあれよあれよという間に寝室へと連行されてしまった。
寝室へ来ること自体は構わない。
むしろロイさんを寝かせるという次のミッションを考えれば願ったり叶ったりだ。
しかし、
――何、この状況……!
アツシを寝室へと引っ張り込んだロイさんはというと、ベッドへ腰掛けているアツシを後ろから抱え込んだままじっとしている。
眠れないのか、ぼんやりとしたまま宙を見つめている。
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