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第60話

結局アツシはケータイを弄りながら何とか2時間、ロイさんの腕の中から動かずに過ごした。 さすがにもう色々限界だ。 腕の中から抜け出そうとしてロイさんに背を向ける。 途端にむずがるように眉根を寄せたロイさんがアツシの腰を引き寄せた。 「ちょ、ロイさん……っ、」 向かい合わせから背中を向ける体勢に変わっただけで何も解決していない。 いや、顔が見えない分緊張感は少しだけ薄らいだだろうか。それも気休め程度のものだが。 「はぁ……」 何だか無駄に緊張し過ぎて疲れてしまった。 ため息を吐いていると首筋に吐息が掛かった。 「ンっ、」 声が漏れたのに驚いて慌てて口を塞ぐ。 しかしその動作が眠気を妨げたのか、顔を背中へと押し付けるようにして寝心地の良い場所を探し始める。 元々うつ伏せでないと眠れない人だから、それ自体は自然なことといったら自然なことだろうか。 だが意識しまくっているこちらはそれでは済まない。 「ンぅ……っ」 ゾクゾクとした刺激が背中を伝った。 押し付けられる唇や鼻の形を感じ取ってしまい余計過敏になってしまう。 「ぁ……っもう、」 「……ンんー、」 腕を解こうとすると嫌がったロイさんの手が服の中に入ってくる。 もしかして起きているのではと疑い顔を覗き込むがさっきとそう変わりない寝息を立てている。 いつもならそう変わらないはずの体温も今はロイさんの方が低い。 ほんのり冷えた手の温度にまたゾクゾクしてしまう。 ロイさんはというと、多分触れた肌が温かかったのか少しずつ暖を求めて上へ上へと上がってくる。 「ひ……っ!ろいさん……、もうはな、して…!」 起こしたくないけれどちょっとこれ以上はまずい。 何がまずいって、 ――勃ちそう……つ、 ただでさえ好きな人と超至近距離にいるというのに素肌を直に触られたら反応してしまう。 「ひぁ……っ!」 上がってきた手が乳首を掠めてビクンと身体が跳ねた。 ジンとした刺激が尾を引くようにしてずっと胸元に残っている気がする。 その感覚を早く消し去ろうとじっとしているがその間にもまた指が触れる。 さすがにこれはおかしい。 「 ……っ、ロイさん!起きてるでしょう……っ!?」 「ふ……っ、」 クスクスと笑われ思わず後ろを振り返った。 至近距離過ぎて目は合わないが変わりに耳元で呟かれる。 「なんだ、もう気づいちゃったの」 「当たり前でしょ……うっ、ぁ」 「……今日、真っ赤だね……なんで?」 「なんでって……っ、」 そりゃあ、意識しているからだと言いたいところだがそんなこと言えるはずもなくアツシは下を向く。 ロイさんも気まぐれで聞いただけなのか、それ以上追求してくる様子はなかった。 それに寂しさを感じるなんてどうかしている。 アツシが心を落ち着かせるため目を閉じている間に、ロイさんの呼吸が首筋に当たった。 「ちょっと……、何して……」 「わからない?」 衣服をずらし、ちゅっと首輪の下部分にキスをされる。 思わずピクンと反応を返すとまた笑われた。 「わ、か……ぅ、」 なんでこんな状況になっているのかなら、さっぱり分からない。さっきまで眠たくて寝ていたんじゃなかったのか。 全くそんな雰囲気じゃなかったのに、と戸惑いながらも身体が反応してしまう。 「あァ……っ、」 ふにふにと乳首を摘まれ涙がせり上がってくる。 反対の手で脇腹の当たりを触られる。いつもなら擽ったいだけなのに今は気持ちよさが勝った。 イヤイヤと腰をくねらせて逃げると抑え込むようにして腸骨を掴まれる。 「う……ンん……っや……ぁ、」 乳首をクリクリと優しく弄られると声が我慢出来ない。 あの恥ずかしさ極まりない絆創膏はなんとか取れたものの、あの日からやたらと敏感に反応してしまう。 今だって快感の波が引かないままずっとふわふわと浮いているようだ。 「あ、も……っ、だめ」 耳を食まれた瞬間、ずくんとペニスに熱が溜まるのが分かった。恥ずかしくて顔を上げられない。 「も、離してください……っ、」 「だってこれどうするの?」 「……っ、」 ロイさんはそう言ってペニスをなぞるように服の上からするりと撫でる。声が出そうになって思わず口を引き結んだ。 「……と、といれ……行ってくるんで」 恥ずかしいけれどこのままここにいる方がもっと恥ずかしい。 ドクドクと心臓の音が聞こえる。 「抜くならここで抜きなよ」 「い、嫌です……!」 眉根を寄せると不満そうに後ろから顔を覗き込まれた。 「人様ん家では抜けるのに?」 「誰のせいですか誰の……っ!」 言い方に含みを感じてかぁっ、と頬が熱くなる。 ロイさんが悪戯してきたからこうなっているのにまるでアツシが勝手に抜いてくるような言い方だ。 しかしそんなことはお構い無しにロイさんはアツシの手を下へと誘導する。 「ほら、やって……?」 やってと言われてもロイさんの前でそんなこと出来るわけが無い。触らずにいると上から手を覆われ、アツシの手のひらを擦り付けるように動かされた。

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