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第63話
翌朝、意識が浮上したアツシは背中に違和感を感じてパチリと目を開けた。
「ん、ここ……どこ……?」
暫くはぼんやりと当たりを見回していたが、唐突にロイさんの家にいることを思い出す。
そのまま昨日の出来事も思い出し顔を両手で覆ったまま声にならない言葉を発した。
「あー……うー……」
まさかあんな事になるなんて思わなかった。
というか今思い出しただけでも恥ずかしい……。
――自分からロイさんに……ダメだこれ以上思い出すのはよそう。
墓穴を掘る予感しかしない。
とりあえず心を落ち着かせようと深呼吸を繰り返しているうちにふと後ろが気になって振り返った。
その先にはこの前と同様アツシを抱き枕にして眠り込んでいるロイさんがいた。
アツシが動いたせいで寝心地が悪くなったのか、しかめっ面をしながらもアツシの太もも付近にくっついている。
「……かわいい」
思わず心の声が口をついて出てしまい慌てて口を閉じた。
ダメだ。ここにいるとずっとロイさんばかり気になってしまう。
アツシは自分を誤魔化すようにして自身の状況を確認した。
あれだけ酷い状態だったのに今はさっぱりしている。
とはいえ、この前のようなスッキリ感は無いので多分拭いてくれたのだろう。
ということはだ。あの時のあれはお風呂に入れてくれたということになる。
アツシは思わず顔を両手で覆う。
恥ずかしい。
恥ずかし過ぎる。
まさかこんな後になって自身にダメージを負うとは思わなかった。
さすがに同じことを繰り返すわけにはいかない。
とにかくロイさんが寝ているうちにシャワーを浴びてしまおう。
アツシはそっとロイさんの腕を外す。今度はすんなりと外れたことに若干の寂しさを抱きながらも部屋をあとにした。
ひとまずはシャワーが浴びたい。
何か服はないかと考えているうちにこの前置いてった服のことを思い出した。
脱衣場の棚を見ればすぐ手前に一纏めにして置いてあるのに気づく。取りに来るのをすっかり忘れ去っていたがロイさんはきちんとしておいてくれたらしい。
しかし何でここにあるんだろうと思いながらも有難くそれを着ることにした。
「はぁ……」
シャワーを浴びてようやく一息ついたアツシは乾燥機に自身の服を放り込みながらそわそわと視線をさまよわせた。
「なんか……落ち着かない」
シャワーを借りたついでに髪を洗おうとしたのだが、バスルームにあるのがとんでもない高級シャンプーであると気づいてしまったのだ。
そういえばロイさんが付けてる香水ってこのメーカーのやつだった。
アツシが使っているシャンプーとは桁が違う。
恐れ多いので借りるのはやめておこうかとも思ったのだが、汗やら何やらでベタつく。
うんうん悩んだ末に結局借りることにしたのだが――
「に、おいが……」
ロイさんの香りが自分の身体から香ってくるのに慣れない。
近くにいる訳でもないのにドキドキしてしまいソワソワしているというわけだった。
「うぅ、そんなこと言ってる場合じゃない……」
身なりを整えたのだから、今度は食事をどうにかしよう。
そして使ったのがバレる前に帰ろう。
別にバレた所でロイさんは何も言わないだろうが、何だか恥ずかしい。
アツシは誤魔化すように冷蔵庫を覗き込んだ。
帰る前に軽く食べられるものを用意しておいてあげたい。
たくさんは食べられないと思うのでスープと小さなサンドイッチを用意することにする。
マキさんのプロの味には程遠いが一人暮らしなのでそれなりの筈だ。
特に今まで何も文句を言われたことは無いので大丈夫な筈なのに味は大丈夫だろうかと気になる。
「何してんだろ……」
そんな所にも自身の変化を感じてしまい、自分の姿を想像して苦笑を浮かべた。
これ以上自分に呆れる前に帰ろう。
食事を作ると置き手紙を残し、アツシは帰宅することにしたのだった。
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