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第68話※
「ちょっと、ロイさん……?!」
上から覆いかぶさってくるロイさんを慌てて押し退けるがビクともしない。
それどころか無言のまま膝裏を持ち上げられてそこでようやく何をしようとしているのかを察した。
「し、しないですよ……っ!」
「何言ってんの。ここでって言ったのは自分でしょ」
冷めきった瞳を向けられて身体がすくむ。
確かに言ったけれどまさかそれでここでするとは思わなかったのだ。
――熱い。
アツシが拒否すればするほど、威圧のようにアルファのフェロモンがじわじわとアツシを蝕んでいく。力が入らなくてロイさんの服を握りしめた。
それに対して大した反応も返さずロイさんは黙ってこちらを見つめている。それに危機感を感じて慌てて口を開いた。
「……っ、鍵だって……!」
「掛けてないけど?」
さも当然のように言われて血の気が引く。
ロイさんが何を考えているのか分からない。まだみんな残っているし、いつ入ってくるかも分からないのだ。
こんな所で出来るわけが無い。
何より今はそんな気分にはとてもなれなかった。
抵抗すると無理やり押さえつけて胸元を肌蹴られる。
そのままの流れで顎をすくわれた。
途端、唇を重ねるリュウさんとロイさんが脳裏を過る。
目を見開いたアツシは咄嗟に口元へ力を入れた。
――ガリッ、
柔らかな感触と共に口の中へ血の味が広がってからロイさんの唇を噛んだのだと気づくがもう遅い。
「あ……っ、ごめ……なさ……、」
自分がした事に驚いて目を見開く。
ただ力が入ってしまっただけで噛もうとした訳ではなかった。
怪我をさせてしまった事実にアツシが半泣きで謝るとロイさんの匂いかぶわりと強くなる。
「ひ、ぁ゛……っ、!!」
ドクドクと心臓の鼓動が早くなった。
それに合わせるようにして身体に力が上手く入らなくなる。
膝なんて既に笑っている状態だ。
どうしよう。ダメだと思うのにまた流されてしまう。
――熱い。
手の力が抜けたのを見計らってインナーのシャツを強引にたくし上げられた。
「い……ぁ゛……っンん……っ、」
胸をグリグリと弄られると快感から涙で視界が滲む。
いつもより力が強い。
痛いのにヒートまがいなせいで快感に変わる。気持ちが良くて思わずロイさんの腕にしがみつくと首筋を噛まれた。
噛むついでとばかりに吸い付いてくる舌の感触さえも気持ち良い。
「いいの?外に聞こえるよ」
「……っ、」
慌てて自分の口を両手で塞ぐが鼻にかかった声は上手く抑えられない。
邪魔な両手が無くなったのをいいことにロイさんはアツシのスラックスのファスナーを下ろす。
その時、廊下の方から近づいてくる足音に気がついた。
「やだ……ロイさん……人が来るから」
「知らないよ」
そう言ったロイさんは本当に止めることなくスラックスをずり下ろす。
慌てて引っ張りあげようとすると腕を払われた。
音は真っ直ぐこちらへと近づいてくる。
焦ってロイさんを振り仰ぐが全く気にしている様子は見られない。
それに嫌な汗が背中を伝った。
「や、やだ……っ!!」
「……ふん、」
バシバシと腕やら背中やらを叩くが止める気がないのか鼻で笑われる。
いつもは弧を描く口元も今は引き結ばれている。
それが尚更不安を煽る。
「……ふぅ……っ、やだってばぁ……っ!」
胸は苦しいしすぐそこまで誰か来ているという焦燥感と不安で、もう頭も心もぐちゃぐちゃだった。
ぐすぐすと泣くとようやくロイさんが手を止める。
「だって部屋には来たくないんでしょ」
「行きます……行きますからぁ……っ!も、やめて……」
「もう遅いよ」
こんな姿、他の人に見られたくない。
ぐすぐす泣くアツシを冷めた目で見下ろすロイさんはようやくそこで扉を方を向いた。
――ガチャリと音を立てて扉が開く。
アツシから離れたロイさんはそれに合わせるようにしてするりと休憩室の扉から顔を出した。
「……わっ、!!」
「あぁ、ごめんごめん。大丈夫?」
「……大丈夫っすけど」
声からしてやって来たのはコテツさんだったらしい。
アツシは横たわったまま、ソファの背もたれ部分に隠れるようにして身を小さくした。
出来る限り体を折り畳み、口元を両手で覆って声も抑える。
ここからだと肩くらいは見えるだろうがその他は見えないはずだ。
それでもバクバクとうるさいくらいに鳴る嫌な鼓動は止まらない。
「……っ、」
ただでさえ身長があるというのに呼吸も乱れていて身を小さくするのが辛い。
けれど服はぐちゃぐちゃだし、入ってこられたら何をしていたか一目で分かってしまう。
入って来ないでと願いながら、アツシは震える口元を引き結んだ。
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