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第77話
夕方、マンションを出た2人は揃ってお店へと向かっていた。
前を歩くロイさんの背中を見つめる。
2人揃って出てくるなんて初めてのことだ。
アツシを気遣ってか、歩調がいつもよりゆっくりとしている。
そのことに気づいてしまい、何だかむず痒い。
でもよく考えて見てほしい。
何も言われていないこの関係は何なのだろう。
いや、そもそも自分で何も言ってないのが悪いんだけども。
そんな風にアツシが悶々としていると、急に立ち止まったロイさんに気づけずにぶつかる。
「わ……っ、なんですか」
「ちょっと寄り道しよう」
そう言ってすたすたと1人路地裏へと入っていく。
慌ててその背中を追いかけると、そう遠くない所ですぐに立ち止まる。
「なんなんです」
「しー」
口に人差し指を当てられ何事かと瞬きした。
あっち、と指さされた先を見てみればそこには、
「……リョク?」
リョクとシキさんが佇んでいた。
――何してるんだろう?
2人は何やら言い合っていたが、それ自体はよく見る光景だ。しかしなんだかやたら距離が近い気がする。
なんて疑問符を浮かべているうちにシキさんがリョクの二の腕付近を掴んで引き寄せた。
次の瞬間には唇を重ねる。
「……へ?」
すぐ様シキさんを突き飛ばす様にして離れたリョクがシキさんを殴りつけていたが、アツシの思考は完全に固まっていた。
「え……え?!」
「やっぱり知らなかったんだ。あの2人、随分前から付き合ってるよ」
そうなの……?!
親友の知られざる恋人事情を聞いてしまい、動揺が隠せない。
告げられてないことがショックだったが、よくよく考えてみればこの鈍感さだ。
その上恋愛話は苦手だし言うのを躊躇われた可能性があると思い直す。
何だかんだ付き合いの長い2人だし、割とギリギリな仕事もしていると聞く。
でもまさか付き合っているとは思わなかった。
びっくりした、と目を瞬かせていると満足したのかロイさんはまた通りの方へと歩いていく。
つまり、寄り道とはこれを見せることだったというわけだ。
「な、なんでわざわざ見せるんですか」
本人たちが隠してるのに、と続けると悪戯っぽく笑う。
「んー、仕返し」
艶やかに弧を描く口許に思わず頬が赤くなった。
* * * * *
仕事を無事に終え、家に帰ってきたアツシはベッドに腰掛けて小さくため息を吐いた。
なんだか色々と衝撃的だったなぁ。
シキさんとリョクが付き合っていたなんて全然知らなかった。
――いつから付き合っているのだろう。
考えてみても鈍い自分には分からない。これといって付き合い方が変化した様子も感じられなかった。
それに、今はどちらかというと自分のことをどうにかしなくては行けない気がする。
――ロイさんの真意が分からない。
嫌われてはいない、と思いたい。
でも好かれているかと聞かれれば正直首を傾げるところだ。
だって何も言ってこないし。
いや、他のアルファと番になるのは嫌だとは言われたけれど……。
正直そういうことがしにくくなるからと言われればそれまでな気がする。
セフレなら男の方が勘ぐられない分都合がいいのかもしれない。
何より、ロイさんはリュウさんともキスしていた。
結局、アツシの思考が行き着く場所はそこなのだ。
あの二人のことが気になって仕方ない。
本命はリュウさんで、自分はただの遊び相手なんじゃないか。遊び相手がいなくなるのは都合が悪いからあんな風に言われたんじゃないかと思考はどんどん悪い方へと落ちていく。
――あ、だめだ。
自分の考えたことに気分が沈んでいくのが分かって、それを振り払うように首を横に振った。
「……やめよう」
悩んでいても仕方ない。
うんうん唸るのにも疲れてきて、アツシは大きく息を吐き出した。
兎に角、明日は休みだし掃除でもして気分転換しよう。
そう思いながらベッドへと寝転がっていると突然、玄関の開く音で来訪に気づいた。
――タイガかユキオが来たのかな。
足音が軽いので多分ユキオだろう。
時計を見ればもう深夜というよりは朝方に近い。こんな時間にやってくることはそうそうないが全くないとは言いきれない。この前のことがあるので心配だ。
何かあったのかもしれない。
玄関に向かおうと立ち上がった所で勢いよく扉が開いた。
肩で息をするようにして、どこか切羽詰まった表情のユキオが入ってくる。
「ど、どうしたのユキオ」
無言で近づいてくるユキオの顔は泣きそうに歪んでいた。
もう一度声を掛けようとするが、その前に両肩を掴まれる。
「アツシ……俺と番になって」
「は?」
「今すぐ、俺と番になって」
ぐっと体重を掛けてくるので慌てて押し返す。
目が虚ろでどこを見ているのかよく分からない表情だ。
「ちょ、待って待って……!何どうしたの?」
タイガとなんかあった?と尋ねるが答えは返ってこない。
代わりにぐっ、と肩を押されて思わず痛みで顔を歪める。
傷口に指がくい込んで痛い。
「……っ、」
力が上手く入らずにぐらりと傾ぐと、そのままベッドへと押し倒された。
泣きそうな顔の弟分相手に強くは出れないが、さすがにそんなこと言ってられない。
「ちょ、待って……っ!ユキオ……!!」
元々の力の差があるので呑気にしていたのでは力負けしてしまう。
今この状態のユキオが何処まで本気なのかも怪しい。というか、本当に番になったりしたらこの子の人生を奪うことになるのだ。
そんなこと絶対出来ない。
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