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第91話

そう思ったけれど口に出したら否定されそうな気がして聞くに聞けない。 不安と共に少しの期待が綯い交ぜになる。 違ったらどうしよう。そう思うと言い切ることが出来なくておずおずと本人へ聞き返した。 「ロイさんは……えと、……何でだと思いますか?」 我ながら遠回しな言い方だとは思う。 それでも、ピアスの件で1度やらかしているだけに怖くて言い出せなかったのだ。 ロイさんはアツシの顔をじっと見つめる。 「もしも……それがヤキモチだったら――嬉しい?」 言葉を切ったロイさんと目線が合う。 その目にからかいの表情はなくて本気で聞いているのだとわかってしまった。 じわじわと耳まで熱くなる。 胸の内がむず痒いような、もやもやしたのとは違う気持ちが湧いてきて下を向く。 言いたい。 言いたいけれど不安で素直に言うことが出来ない。 つい『正解』の言葉を探してしまう。なんて言ったら正しいのか言葉に詰まり、視線をさまよわせた。 シキさんはニヤニヤと笑いながらグラスを煽っている。 人を肴にしてお酒を飲まないで欲しい。けれどそんなこと言う余裕などない。 ロイさんはというと、こちらの様子を伺いながらもじっとアツシが答えを出すのを待っている。 ずっと見つめられていてもう首まで熱い。絶対、顔も真っ赤に違いない。 結局自分に嘘をつくことは出来なくてそのままの気持ちを吐露した。 「う……っ、うう……嬉しい……かも、」 しれません、と最後の方は口の中だけでモゴモゴと言葉が掻き消えてしまう。 ――は、恥ずかしい。 素直に思ったことを伝えるってこんなに難しい事だっただろうか。もうロイさんの方を見ていられなくて思わず顔を覆う。 「ふぅん。嬉しいんだ」 それでもどんな表情をしているのか気になってそっと見遣ればニヤニヤと笑うロイさんと目が合った。 嬉しそうにも見えるが、それ以上は何も言ってこない。これではなんの為の問答だったのか分からない。 「な、何で聞いたんですか?」 「別に」 答えを聞こうとするがロイさんはアツシの回答で満足してしまったらしく答えてはくれなかった。 かと言って嫌そうな様子では決してない。 ことの一部始終を後ろで見ていたシキさんが口を抑えて肩を震わせているのが見える。 それはそうだろう。24歳にもなってこんな問答で真っ赤になるなんて情けない。 そんなことを思っているうちにロイさんはさっさと立ち上がった。 「アッシュくん案内よろしくね」 「え?え……はい」 すっきりした顔のロイさんは1人ルームを去っていくがこちらは無駄にドキドキさせられた上に結局なんだったのか分からない。 ロイさんがいなくなった後、シキさんにばしばしと背中を叩かれた。 「いやぁ、良かったなぁ!」 「よ、良かったんですか……?」 満足されただけで何も言われていないこの状況を素直に喜んでいいものか。 そう頭では思っているのにじわじわと上がった体温は戻らないし火照った頬も熱いままだ。 どうにか熱を覚まそうと手の甲で頬に触れる。 思った通り火照っている頬はいつも以上の体温だった。 ひとしきり堪えきれない笑いを噛み締めたシキさんはアツシに向き直る。 「っはぁ……ったく。面白くないんだとさ。あんま妬かせてやんなよ」 別に妬かせようとなんてしてない。嫉妬して欲しい気持ちは勿論あるけれどそんなことして貰えるのか正直分からなかった。 でも、シキさんが言うならばそういう事なんだろうか。 ロイさんが、嫉妬してくれている。 ダメだ。頬が赤くなるのを隠せない。 思わず座り込むと喉の奥で笑いを堪えるシキさんにガシガシと乱暴に頭を掻き回された。 「お前そのまんま出てったら早速妬かれるぞ。適当に帰るから落ち着いてから出てこいって。な?」 「うぅ……、はい」 情けないがこんな状態じゃ出られない。 ここはシキさんの言う通り大人しくしておこう。 コクリと頷くとシキさんは今度こそ笑いだした。

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