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第99話
「ロイさん、たまに凄く可愛いですよね」
「……君に言われると凄く複雑な気分になるんだけど」
「え」
嫌ってこと――!?
あわあわすると途端に顔の前で違うと手を振られた。
「嫌じゃないけど……なんか嫌」
「結局嫌なんじゃないですか!」
「可愛いと思ってる子に可愛いって言われたら複雑でしょ」
「うぐ……っ!」
ふ、不意打ちは狡い……!
恥ずかしくて頬が熱くなる。
「そういうことよく平気で言えますね」
「君じゃなかったら言わないよ」
「……もういいです!俺の負けでいいのでもう勘弁して下さい!!」
恥ずかしい……!!
思わずソファの背もたれに懐いて顔を埋める。
今まで悶々と悩んでいただけに急なデレについていけない。心臓がもたないんですがどうしたらいいですか。
熱くなった頬を冷まそうと奮闘していると、丁度目に付いたのかピアスをするりと撫でられた。
「……イーミンから渡された時、すぐ僕をイメージして選んだんだって分かった」
今つけてるものじゃなくて、これは最初に渡されたピアスの話だ。そう思うと何だが思い出して胃が重苦しいような痛いような気持ちが蘇ってくる。
「ピアスを見て、どうしてか分からないけどすぐ君が浮かんだ。僕の色を送るなら、君がいいと思った」
まっすぐに向けられる視線がむず痒い。なのにどうしてかロイさんの視線から目が離せない。
リュウさんからのプレゼントだと知った時、まるで自分自身を蔑ろにされたような悲しみを味わった。
あの時はなんで人に送られたものを送るんだと悲しくて苦しくて仕方なかったのに――。
「君がイーミンから渡されたって知ってどう思うかなんて考え無かったから。嫌な思いさせたね」
「お、れ……ロイさんが渡してくれた時凄く嬉しかったけど、リュウさんからのプレゼントだって分かった時俺の気持ちはどうでもいいんだって思って……凄く辛かった。だけどそんな話聞いたら」
――今はこんなにも嬉しい。
無意識だとしても、まるで隣にいることを望まれたような気分になる。思い出した痛みと嬉しさと恥ずかしさで頭がいっぱいだった。
「それは、嫌じゃない?」
「嫌じゃ……ないです。嬉しかったから」
「良かった」
顔をあげないまま頷くとそっと髪を撫でられた。
そんなこと言われて嫌だと思うわけがない。
最初からそう言われたならこんな風に悩まなかったのに。
けれど聞けなかった自分も悪いのだから仕方ない。
というかもうさっきからおなかいっぱいだ。
恥ずかしいやら嬉しいやら色んな気持ちが込み上げてきて思わず鼻をすする。
ぐすぐすと泣くとそっと頭を抱き寄せられた。
抵抗する理由もなくなったアツシはされるがままにロイさんの肩へ頭を寄せる。
「君が好きだよ」
「お、れも」
ずっとずっと言いたかった言葉を今なら言うことが出来る気がした。
「俺も、ロイさんが好きです」
「……ありがとう、アツシ」
顔を上げると頬を伝った涙を拭われる。
嬉しそうな、それでいて泣き出しそうに眉を下げるロイさんの表情に胸がたまらなく疼いた。
そっと顔が近づいてきてキスされるな、と思い目を閉じる。
思ったよりも軽いリップ音に驚くとロイさんはクスクスと笑った。
「まだ怪我が治ってないから……したかった?」
「ちが……あの、……っいつもと違うから」
こんな優しいキス今までしたことが無い。
何だか気恥ずかしくて気持ちがそわそわと落ち着かない。
慌てれば慌てるほど笑いをこらえるロイさんの肩が跳ねた。
「ロイさん……っ!」
そんなに笑わないで、と非難を込めて名前を呼ぶと首を横に振られる。
「名前、」
「え?」
「僕の名前、分かるでしょ?」
ロイさんの名前、とはこの場合本名ということだろう。いくら通り名があっても書類などは偽名のままというわけにはいかないので知っている。
ロイさんの名前は――、
「ろ、禄人 さん」
「ん。これから2人きりの時はそっちで呼んで。その代わり僕も名前で呼ぶから――アツシ」
何だこれ。思わず顔が赤くなった。
何だか別人のようでいて、いつもの笑みも浮かべるロイさんに翻弄される。
本当に気持ちが伝わったんだという実感がじわじわと湧いてくる。何だか少し恥ずかしい。
それでも嬉しい気持ちが勝ってアツシはまた鼻をすする。
退院したその日、アツシはロイさんと晴れて恋人同士になった。
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