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7 本心を隠す僕
亮介と和輝のお話から約一年前。
「亮介ー!ノートありがとうーーー!」
「お、おぅ」
渡り廊下で亮介を見つけると慎吾は借りていたノートを鞄のなかからとりだし、亮介に渡す。
「助かったよ!」
ニコニコする慎吾を眩しそうに見る亮介。
(あー、コイツ本当に僕が好きなんだなぁ)
慎吾は心で呟いた。
(とっくにお見通しなんだけど)
友人の亮介が向ける視線が前と違うことに気づいたの数ヶ月前から。
この手の視線にはもう慣れていた。
昔から可愛らしい、可愛らしいと言われながら育った慎吾は気がつくと同性からも好かれるようになっていた。
全寮制の男子校に入学してからはそれがさらに加速した。
何とか男らしくなりたいと思った時期もあったが、いまはこれでいいやと諦めている。
むしろ、可愛らしさを利用していた。
それが亮介に対する態度だ。
亮介が自分を可愛らしいと好意を込めた眼で見てるのが分かった時、軽く失望した。お前までそんな目で見るのかと、慎吾はがっかりしていた。
(可愛らしいままで色々使ってやる。お前の恋人なんてなってやらない)
そう思いながら亮介をアゴで使っていた。
プカプカと白い煙が上がる。
煙草を加えているのは慎吾だ。
屋上のタンクの側が慎吾の憩いの場になっている。
当然、喫煙が見つかれば停学だ。それでも慎吾は煙草を吸いながらボンヤリとしていた。
夕方の校庭ではいろんな部活の活動する声が聞こえる。その中でもこの屋上に聞こえてきたのはパーン、と何か破裂するような音だ。
今までも聞こえていたがふと、何だろうと気になりひょいと音のする方を覗いてみた。
真下のプレハブの横にある、屋根の下。
矢が飛んで的に命中した瞬間に音がする。
(あー、弓道部かあ)
屋根の間から見える袴姿。
凛とした立ち姿が男らしく見える。
(こういうのやったら男らしく見えるのかな)
暫く見ていると、矢を放った後の彼がふと顔を見上げ、慎吾の方を向いた。
(ヤベッ!)
煙草を咥えたまま、彼と目が合う。
慎吾は慌てて隠れ、煙草の火を消した。これだけ遠ければ誰かなんて分かるまい、と胸を撫で下ろす。
時計を見るともういい時間だ。大きく背伸びをして慎吾は帰る準備をする。
放課後のこの一人時間が慎吾にとっては何よりの息抜きだ。可愛らしくいる必要のない、時間。
寮の自室に戻っても一人にはなれるのだが、校内で一人になるのが好きだった。
さて帰るかな、とドアノブに手をかけた途端。内側から勢いよくドアが開き、慎吾は押されて尻餅をついた。
「いってぇ…」
「あっ、すまん!そこにいたのか」
目の前に立っていたのはさっき、目があった袴姿の弓道部員。かなり走ってきたのだろうか、肩で息をしている。
「そんなことよりお前、煙草!」
「へ?」
「さっき吸ってたろ!全部出せ!」
勢いよく怒鳴られて、慎吾は思わずポケットにある煙草を出してしまう。
「こんなん、バレたら停学だぞ?ほら貸してみ」
煙草を奪い取るとそのまま彼は立ち去ろうとしたので、慎吾が慌てて腕を掴んだ。
「ちょっと、人のもの勝手に持ってくなよ!だいたいお前、誰だよ!」
振り返って彼は憮然とした態度で答える。
「2ーEの片山征次だ。告げ口されなかっただけでもありがたいと思えよ」
それだけ言うと片山はドアを閉めて行ってしまった。
(な、なんなんだーー!)
唖然としたまま慎吾はしばらくその場にとどまった。
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