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停車した黒塗りの車からゆっくり降りて、目の前にそびえ立つ、どう見ても俺の身長の3倍はある大きな門を見上げた。 天まで届きそうな門…空は青く澄み切っている。 なんだろう……国境かな…? 俺は今国境を前にしているのかな? その門の高さと敷地を囲うような塀の高さに恐れ入りながらも、運転手さんがわざわざ車から降りて渡してくれる俺の鞄を礼を言いつつ受け取った。 門の隙間から見える敷地内は綺麗に真っ直ぐに広く敷石が置かれ周りは整えられた木や草花が植えられている。 そして不思議なことに校舎はどこにも見当たらないのだ。やっぱり国境なのだろうか。 「申し訳ありませんが私が命じられているのはここまででございます。案内の者と送迎バスが直に来るでしょうから暫しお待ちくださいませ」 「あっはい!ここまでありがとうございます!」 「いえ、それでは失礼致します」 深々と頭を下げる運転手さんに慌てて同じくらい深く頭を下げる。 すると顔を上げた運転手さんは少し驚いたように目を丸めていたが、少し微笑むと踵を返して車に乗り込みさっさと発進して行ってしまった。 車が去っていく、その様子を見えなくなるまでずっと見つめていた。 まって、あの人今送迎バス来るって行ってなかった?どこに?ここ?え、それとも敷地内?ちょっと待って、ここからバス乗り継いで校舎までいくということ?パードゥン? 混乱する頭で超絶見えにくい眼鏡を一旦外してから裸眼で辺りを見渡す。 バス停らしきものはない、ただ敷地内の少し奥の方に見えた掲示板には何やら…細かい…数字…あれは、時刻表…? 気が遠くなる。がんばれ俺、まだ敷地内にも入ってないぞ!ぐっと拳を握り空気をめいいっぱい吸い込んだ。 俺の名前は響 巡流(ひびき めぐる)、この春高校2年生に上がると同時に叔父が理事長を務めてる私立学園の高等部に転校することになった。 少し現在の俺の状態を説明しようと思う。 母さんのお母さん、つまり婆さんがイギリス人だった俺は所謂クォーターってやつで、生まれつきの金髪と青い瞳がトレードマーク…のはず、だったんだけど。 「…これはないだろ、叔父さん…」 通常時に比べて半分以上隠れた視界とかけ慣れない眼鏡の感覚にそわそわ体を揺する。 叔父さんが用意していたのは正に、変装グッズとやらだった。 昭和のお笑い芸人でもしないようなもじゃもじゃのカツラと瓶底眼鏡。瓶底っていうくらいだからレンズが普通のものよりも厚く、正直視界は最悪。 その上、視界の半分を覆うほど毛足の長いもじゃもじゃカツラ。見えにくいどころじゃない、もはや見えない。視界ゼロです。 叔父さんがこれをわざわざ用意して学園内に立ち入る前に車内で装着せよと手紙とともに寄越してくれたのにはわけがある。 言われなくても理由なんてわかりきっている、俺の容姿が問題なのだ。 一度この容姿のおかげでストーカーやら何やらが現れ警察沙汰にもなっているんだから用心に越したことはないけれど、それでもこんな格好をするのは気がすすまない。全く遺憾である。 「つける、けどさぁ」 何しろここで叔父さんの言うことは絶対なのだ。 甥という立場をよく理解してる俺は絶対嫌だと跳ね除ける事も出来なくはないが、俺の身を案じてのこのツーセット。叔父さんの気持ちを無下にすることは、俺には出来なかった。 そういうわけで、ストーカーもたくさんいてモテモテだったはずの俺は現在冴えない男の子というわけであります!

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