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それにしても、案内人とやらはいつやって来るのだろうか。 現在の時刻は7時半だし、あと1時間後にはホームルームでも始まるような時間ではないか。 携帯の時間を確認したり辺りを見渡したりと、そわそわ落ち着きがなくなっていくが何たって今日は転校初日だ。 まさか初日から遅刻なんてそんなデビュー果たしたくない。 もしかして案内の人、案内の仕事あるの忘れてたりしないよな? いやでも用務員さんとか、お金貰って雇われてる立場の人が職務放棄をするとは思えない。 いやこの場合は放棄じゃなくて職務怠慢ってことになるのか? いやいや今そんなことはどうでもいいだろうが俺のバカ! 澄み切った空を見上げて一度深く呼吸をした。 焦りから頭がおかしくなってるんだ。せめて、この門さえ開けば…向こう側にさえ行ければ。場所はわからずとも道を辿って行けば、案内の人といつかは鉢合わせになるだろうに。 鍵あいてたりしないかな、と門を掴んで揺らしてみようとするが、ピクリともしない。 鍵が掛かっている、だけだろうがまあこの門の大きさじゃ手動は無理だろうなハハハ。 まあ開かないなら乗り越えればいいだけ……乗り越える? 「そ、それだ!!!」 こ、このくらいの高さならいけるはずだ。 ぱーっと乗り越えてさっさと歩きはじめよう。そうすれば案内人が忘れてても忘れてなくても、どっちにしろ時間ロスにはならない。 不法侵入だとかそっち系で少々問題はありそうだが一応転入許可書はあるので不法侵入…にはならない…と願おう。 緊張からだろうか、妙に興奮して汗ばむ手を握る。 よし、そうと決まれば決行だ。 大きく振りかぶり鞄を門の向こう側に投げ飛ばす。大丈夫、ガラスとか割れ物は入っていない。 高さが足りなく門に当たって落ちたりや、どこかへ引っかかる事もなくボスン、と音を立てて鞄が向こう側に落ちる。小さくガッツポーズをして空を見上げた。 次は俺の番だ。 大丈夫、運動神経はいい方だ。慎重にいけば怪我もなくあちら側へいける、はずだ。 眼鏡とカツラは邪魔物以外の何物でもなかったが、カツラをセットするのは結構大変だった。 鏡もない今、一人でもう一度付け直すのは無理だろうということでカツラは諦める。メガネだけ外して折り畳み、胸ポケットに突っ込んだ。 緊張から汗ばむ手のひらをごしごしズボンで拭う。 よし、準備は万端だ。行こう。俺の新しい青春の舞台となるこの学園の敷地内へ! 冷たい金属で出来た門を両手で掴んで、地面を蹴り上げるようにぐっと飛び跳ねた。 * 「はぁ、はぁ…きっつ…なんだこれ…めちゃくちゃ高い、きつい、しんどい、手が痛い…高い…」 無事、頂上にたどり着いてどれくらい経っただろうか。 1時間くらいにも思えるが多分ほんの15秒ほどだろう。赤くなってしまった手のひらをぎゅっと握りしめて視界の半分を覆う前髪(かつら)をかき分けてから辺りを見渡す。 自分のことで精一杯すぎて気がつかなかったがすごい、絶景だ。 塀の内側は草木が生い茂って、門から真っ直ぐ伸びる道はだいぶ遠くまで続いている。 途中大きな噴水があって、その周りにはベンチや自動販売機なんかも置いてあるではないか。ここは公園か何かなのか? 面食らいながらも噴水の先をもう少し行ったところを目で追っていく。 噴水を通り過ぎた先、そこには真っ白で大きな俺の目線よりもはるかに高い建物がある。 それは横にも広くまるで翼を広げた大きな鳥のシルエットだ、あれが校舎だろうか。 いやそれにしては広すぎではないか?それに他にも似たような建物はところどころに点在しているようで、そういえばこの学園は高等部だけではなくて初等部から高等部まであったのだと深いため息をつく。 まるで夢のようだ、どこまでが敷地内なのか、ここからでは門の横に続く塀の先もどこまで続いているのか見えない。 とにかくわかったことは、この学園は馬鹿でかい規格外の大金持ちの学校だってことで。 「なにをなさって…いるのですか?」 不意に声が下方から聞こえてきた。 案内人が今頃やってきたのだろうか、まさかこんな場所でただの通行人というわけではあるまい。 大体4.5メートルほど下、地上で眩しそうに俺を見上げる人物を見下ろす。 太陽の光が反射して色素の薄いミルクティ色の髪の毛がキラキラ光っていた。

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