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二人分の上履きの擦る音が廊下に響く。 今は既に一限が始まっている時間帯のため一般生徒の姿はなく廊下は静寂に包まれていた。 体育館でのトラブル処理に予想以上に時間がかかってしまった。 それでもまだ問題は解決していないし、やらなければならない事は山積みだ。この調子だと午前いっぱいはかかるな…。 どんどん授業の欠席が溜まっていく、いい加減遅れを取り戻さなければいずれ取り返しのつかないことになるのは目に見えているのに、なかなか時間がとれないのだ。 前々から思っていたことではあるが生徒会役員の授業出席免除も考えものだな、と1人深いため息をついた。 「会長、どうにかなるでしょうか…」 常盤が弱々しい声でそう尋ねる。 愚直すぎるその質問に眉を顰め、少し後ろを歩く常盤に目を向けた。 常盤は体育館での凛とした様子は嘘のように、俯き加減で眉をハの字に寄せて口元はきつく結び、それはそれは情けない顔をしていて。 またこいつは…人目がなくなったらすぐにヘタレと化す……。 生徒会唯一の二年生とだけあって彼にかかる期待やら何やらは計り知れないものだった。 本人も一般生徒達からの期待と羨望の眼差しに必死に応えようと努力をしているのを、俺たち同じ生徒会役人達には十分すぎるほど伝わっている。 だからこそ表舞台に立つ、生徒会唯一の二年生として十分に支持される常盤が、実際ただの普通の生徒達となんら変わりない、むしろ大分ヘタレである事をよく知るのも俺たちだけ。というこの状態に若干の危機感を覚えているのだが。 「…どうにかなるんじゃなくて、どうにかするしかないだろ。どうにか出来なかったら入学式っていうせっかくの晴れの舞台が台無しだ」 「そ…うですよね……、すみません。俺、こういうトラブルって本当に苦手で、」 「お前は一旦落ち着く事を覚えろ。大丈夫だから、冷静になれ」 こういうイベントにお前のいう苦手なトラブルってもんは付きものだ。状況報告を聞いた限り多分大丈夫だから、そんなに慌てなくたってどうにかなる。 続けてフォローをするようにそう言えば常盤は、小さく頷くも気分が晴れる様子はなくただため息を吐くのみだった。 その様子にどうしたものかと、徐ろにポケットに手を突っ込んだ。 確かに、あれだけ問題が重なればテンパってしまうのも理解できるし、捌ききれなかった自分の力量が情けなく思えて嫌気がさすその気持ちもわかる。 電話での指示があったとは言え常盤一人で混乱する現場を収めるのも中々苦労した事だろう。 しかし紛れもなく常盤がその場にいたからこそ、指示伝達かしっかりと通って速やかに対応出来たのは間違いないのだ。 歩みを止めて体ごと振り向き、未だ顔を上げないままでいる常盤の名前を呼んだ。 「常盤、お前は十分よくやったし、お前がいなけりゃここまでスムーズにいかなかった、…助かったよ」 「…そ、…え、…っと……」 「もっと胸を張ればいい。俺がいない間よく1人で対応してくれたな」 常盤は驚いたように目を丸めると、どこか動揺したように視線を彷徨わせた。 その姿に笑みを溢す。すると常盤の頬には朱が差した。 顔を上げないまま俯き加減の常盤。その名前を呼べば観念したように、常盤は遠慮がちに照れ笑いを浮かべた。 「いえ……、はい…ありがとう、ございます、…会長」 「アホ、なに照れてんだよ。ほら、さっさと問題片付けるぞ」 「はい…!」 ようやく顔を上げた常盤の頭に手を置く。 常盤は赤みの引かない顔のまま、じっと俺を正面から見据えると力強く頷いた。 よし、これで常盤は大丈夫だろう。 ようやくいつもの調子を取り戻した常盤に俺も小さく頷き、止めていた歩みを再開させる。 まだまだやらなければならないことは山積みなのだ、とりあえず生徒会室へ戻って…と、これからやらなければならないことを頭の中でまとめていた、その時だった。 「やめ、!!誰かっ!たすけ……っ、」 どこからか聞こえてきた助けを求める声にハッとする。 空耳や聞き間違いなんかではない、常盤にもその声は聞こえたようで、神妙な面持ちをした常盤と顔を見合わせた。

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