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08 浅葱side (副会長)

 自室に戻り、早速鷹司のさっきの様子をLINEする。 『鷹司のやつ、羽柴の部屋に天体望遠鏡置き忘れてさ。僕が取りに行こうかって言ったら、断られた上に、羽柴が星を見ればいいみたいなこと言ったんだけど』  どうやら皆、待ち侘びていたようで、直ぐに全員からそれぞれのメッセージが届いた。因みに鷹司もLINEメンバーだが、まだスマホに慣れていないことに加え忙しさと言うよりは面倒臭さから一度も見ていないようだ。 『それってどう言う意味だと思う?』  それをいいことに、僕らは鷹司と羽柴の関係についてこっそり意見を交わした。 『鷹司、まだ羽柴に謝ってないんだろ?』  いつもは無口で(ども)りがちな不知火も、LINEになると積極的に対話に参加している。文面になると饒舌(じょうぜつ)になる不知火は通話よりも文章でのやり取りの方が得意なようで、普段は会話がない分何かとLINEして来る。 『みたいだね。一応、和解はしたみたいだけど。ほんっと意地っ張りなんだから』 『(`・ω・´)』  日下部は面倒臭いのかスタンプや意味のない顔文字が殆どで、 『俺なんか土下座したぞ!!』 『たかつかさ、ろまんちすとー』  鈴音は喋ってる時とテンションが同じで、日向は流れに着いて来れない上にまだ使い熟せていない。羽柴はまだガラケーらしく、週末の新歓後にスマホデビューする予定になっている。  半分、部屋着化しているシルクのパジャマに着替え、リビングの隅の携帯用のワインセラーからワインを取り出した。まだ飲める年齢じゃないけど、自宅では普通に飲んでいる。    ここでもノンアルワインと称し、僕はこっそり飲んでいる。飲むと言っても殆ど舐めるくらいで、お気に入りのワイングラスにほんの少しだけ注ぎ、香りを楽しんでから口に含んだ。  ソファーに身を沈め、スマホをテーブルに置く。その後も皆はLINEしていたようで、後で確認すると鷹司と羽柴の引っ越しの話題で盛り上がっていた。  鈴音は彼の親衛隊員に頼んだようで、既に終わっているらしい。引っ越しと言えば鷹司と僕が出会ったのは引っ越し当日のことで、偶然同じ日に隣同士に引っ越したのがきっかけだ。  実は、僕と鷹司の自宅は結構離れていたりする。  僕も鷹司も初等部がある場所まで車で何時間も掛かる場所にあり、通学のために僕らは初等部近くの高層マンションにそれぞれ単身で引っ越しをした。  僕は先に兄が世話役の笹原と住んでいた部屋へ、鷹司はその隣にそれぞれの世話役と引っ越したのが初等部の入学式の前日で、たまたま部屋に入る時にドアの前で僕らは顔を合わせた。  次の日に同じ学校の同じクラスだと言うことを知り、S組の生徒は顔触れが殆ど変わらないこともあって僕らは直ぐに仲良くなった。  僕と鷹司は性格が全然違うからぶつかることもなく、初等部と中等部の時は、僕らは会長と副会長の名物コンビだった。  鷹司はその家柄からかプライドがそれなりに高く、しかも意地っ張りだから上手く行かないことも多い。  だいたいはその家柄のお陰で上手く行くんだけど、羽柴とのことはそのプライドが邪魔をしてしまっている。  よりによって高等部で会長になれなかった鷹司の気持ちもわかるし、本当は素直になりたい心の葛藤もわかる。それだけに何とかしてやりたい気持ちはあるけど、こればかりは本人の気持ちの問題だから。  鷹司も気持ちを顔に表さないやつだから、わかりづらいんだよね。羽柴は性格は素直なのに、なんでも一人で解決しようとするし。  きっと、今まで信頼出来る友達がいなかったからだと思うんだけど、羽柴が少しでも頼ってくれたら鷹司も素直になれるはずだ。全く似てないようで似過ぎている二人だから、上手く行くようになると僕ら以上のコンビになりそうなのに。  まあ、こればかりは二人に任せるしかないかと、僕はワイングラスをテーブルに置いた。ごく少量の寝酒は睡眠薬のようなもので、徐々に眠気が襲って来る。  シャワーは浴びたし、食事もしたし。  あとは……、なんだっけ。  生徒会の仕事疲れかいつもより早く眠りに着いた僕は、他のメンバーの抜け駆けとも言える行動を知ることはなかった。 ※お酒は二十歳になってから!

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