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 翌日。いよいよ新入生歓迎会も四日後に迫り、生徒会の仕事も忙しくなって来た。  あのままボイコットが続いていたとして、この仕事量を自分一人で熟していたかと思うとぞっとする。皆と仕事が出来るようになって本当によかった。 「安全面で不安がある生徒会役員と鬼ごっこの企画案ですが、風紀委員会からも待ったが掛かっています」 「はあ?! なんでだよ?!」 「毎年、少なからず怪我人が出ることに加え……」  皆と仕事をするようになって気付いたこともたくさんある。普段は無口で喋らせると(ども)りがちな庶務の不知火が、会議の議長を任せると意外にも見事な司会ぶりを見せた。 「憧れの生徒会役員に学校を案内されるなんて最高だろ!! おれ、お前らに案内されたら最高に嬉しいもん!!」  いつもなら流されてしまいがちな佐倉のそんな台詞にも、不知火は顔色も変えず冷静に対応している。  どうやら不器用な不知火は自分の意思を伝えるのは苦手だが、ある程度決まった台詞がある、流れに沿った会話なら問題ないらしい。 「この意見に関して他に何かありませんか?」  いつもは猫背で縮こまりがちな不知火だけど、背を伸ばし、真っ直ぐ前を見据えて進行する姿は神々しくも見えた。 「鈴音には悪いけど、俺が新入生ならそんなに嬉しくはないかなー」 「え、時雨は不知火の味方なのか?!」 「いや、不知火は敵じゃないし。それに、生徒会役員はまだ7人しかいないだろ? それって大勢の新入生の中で、7人しかご褒美がないってことじゃね? 俺は別に、お前らには案内して貰いたくないしー、あ。鈴音は別ねー」  ところどころ言葉選びや言葉遣いはおかしいけど、珍しく日向が筋の通った意見を言っている。 「それより俺は羽柴のラブレター企画ってのが気に入ったかなー。知らない誰かからラブレターを貰うなんてロマンチックじゃん」  他にもいい企画があったけどといつも通りヘラヘラ笑う日向だけど、どうやら俺が渡した企画案をちゃんと見てくれていたようで少しだけ感動してしまった。 「ラブレターじゃなくて単なる手紙だけどな。新入生が上級生に学校を案内してくださいって頼む。俺は別にロマンチックだとは思わないが、これは当日に企画の趣旨を発表しておけば、各々が自分のペースで実行出来るからいいんじゃないか? 例えば日にちや時間をずらせば、上級生は手紙を貰った新入生全員を案内することも可能だろうし。新入生も好きなタイミングで、好きな相手に好きな方法で渡すことが出来るしな。あと、俺らへの対応策としては、専用の投函箱を用意すればいいし」  鷹司の補足は実に的を得たもので、どうやら一番気に入っていた俺の企画案は鷹司のお眼鏡にかなったようだった。その企画案は新入生が上級生に手紙を書いて、校内を案内して貰うってものだったんだけど。  俺が考えていたのは、上級生が新入生から貰った手紙の中から気に入った一通に返事をして、学校を案内すると言うものだ。開催期間もある程度の期間を設けようと考えていたんだけど、意外にも鷹司は期間は特に設けないようにして、返事をする人数も一人にする必要はないと考えているようだ。  俺の考えでは容姿や家柄に関係なく、手紙から性格や人柄を読み解いて新入生と上級生が交流するのが狙いの企画だった。その手紙を鷹司がラブレターだと捉えていたのも、ある意味意外だったんだけど。  靴箱や机の中の手紙と言えば確かにラブレターで、俺を含む初等部からうちに通う生徒達の中には同性である誰かに渡したり、貰ったりしたことがある生徒も少なくないのかも知れない。  そう言えば、うちの一部の生徒はバレンタインに普通にチョコレートを用意しているし、抱かれたいランキングの上位者はかなりの量のチョコレートを貰っているようだった。  俺は同性しかいないからって考えもしなかったけど、同性にラブレターやチョコレートを渡すのは、言ってみれば擬似恋愛のようなものなのかも知れない。  それにしても意外と鷹司はロマンチストなんだなと思ったその時、俺はベランダにある鷹司の置き土産の天体望遠鏡のことを思い出した。鷹司はラブレターを手紙と訂正したけど、鷹司クラスになると、貰った数も一通や二通じゃないだろう。チョコレートしかり。  会長として白熱して行く議論に感動しつつ、メンバーの意外な性格や実態を知ったことで、俺は今までになく皆を身近に感じていた。

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