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「これでよし、と」  書類の確認を終え、後片付けをして一息つく。これでも会長だから一応は最後まで残っているが、定時に終われると言うのはいいもんだ。  いつものように電気を消し、窓の戸締まりをして生徒会室を後にした。 「あ、羽柴様。お疲れ様です」 「ああ、うん」 「――っっ!」  生徒会長に復帰してからこちら、たまに廊下で羽柴様と声をかけられることがある。どう返していいかわからないから笑ってごまかしているけど、どうやらこの対応はあながち間違いじゃないらしい。  うちの学校の生徒の一部は人気者や有名人を様付けで呼んでいて、まさか自分がそう呼ばれるとは思ってもみなかった。鷹司が俺を生徒会長に任命すると宣言してくれたお陰で、それなりに知名度が上がったようだ。  鷹司に呼ばれて檀上に向かってる時、周りが口々に『あれ誰?!』って騒いでたし。 「んーっ」  軽く首を回して伸び上がる。リコール前の疲れとは違い、適度の疲れは心地いいことを知った。寮に帰る足取りも軽く、擦れ違う生徒に何度か挨拶されつつ寮に着く。 (――カチャッ)  腕時計をかざしてドアを開けた。  特別棟はセキュリティ上の問題で他の棟とは違い、外のマンションのように出入口が常に施錠されている。ロビーのカウンターにはコンシェルジュがいて、俺は毎回挨拶するくらいだけど、主に家事が出来ない生徒達が利用している。  特別棟のエレベーターは二種類あって、一つは最上階直通で、もう一つは最上階の下の階までしか昇らない仕様になっていた。最上階直通のエレベーターも腕時計をかざすことで利用出来るように設定されていて、基本的には生徒会役員専用だ。  例外として、風紀委員長の橘や前期会長の(はじめ)先輩も最上階のフロアまでは自由に出入り出来るよう設定されているんだそうだ。  緊急用ってやつかな?  まだ、橘や肇先輩が直接、俺の部屋に来たことはないけど。  エレベーターに乗り込もうとしたその時、 (~~~~♪) 「あ」  鞄に入れてあった携帯電話が久しぶりに鳴った。  来週にはスマートホンに機種変する予定だが、俺の携帯電話はまだガラケーだ。そもそもガラケーでさえ滅多に鳴らないし、スマホに変える必要性を感じなかった。 「もしもし」  ただ、生徒会長になったことで、皆の助言でスマホにすることになった。いつでもどこでも調べ物をしたり、生徒会役員でLINEグループを持つためで、まだよくわからないけどLINEとやらはメールの一斉送信より簡単に連絡が取り合えるらしい。 「槙村、久しぶり」 『…………』  電話の相手は槙村で、引っ越しは済んだかと聞かれ、まだだと答えると引っ越しを手伝って貰えることになった。あれからまだ休みがなくて、各部屋の隅にそれぞれいくつかの段ボール箱を積み上げたままだ。  電話を切って、特別棟の前で待つこと十分あまり。 「よ、久しぶり」  いつもよりラフな格好の槙村が来てくれた。 「悪いな。遠くまで」 「ははっ、気にすんな。特別棟って入ってみたかったんだよ。しかも生徒会長の部屋に入る機会なんかそうそうないじゃん」  槙村は笑ってるけど、槙村の部屋からここまではかなりの距離がある。もう一度、腕時計をかざしてドアを開ける。  その度に感嘆の声を上げる槙村と一緒に、俺はエレベーターに乗り込んだ。

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