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 その日の夜、風呂に入って歯磨きをした後、ナイトウェアのTシャツとハーパンに着替えてベッドに寝転がった。 「おいで」  枕元に綺麗に整列した中の一体を胸に抱き込んで、布団の中に引きずり込む。枕元に並んでいるのは、自然と腕の中に抱き込みやすいサイズのものになっていたりする。  皆、それぞれに恋愛経験があり、少し驚いてしまった。唯一、意外にも恋愛経験がなかったのが日向で、今も好きな子はたくさんいるけど付き合ったことは一度もなくて初恋もまだだと笑っていた。 「けど、童貞ってわけじゃないんだよね?」 「んー、まあねえ」 「なんだよ、時雨! エッチしてる子達は皆、セフレなのか?!」 「や、セフレじゃないよー。皆のこと大好きだもん」  噂通り日向は定期的に親衛隊の子を部屋に呼んで、セックスしているんだそうだ。その子達皆セフレじゃないよと笑う日向のお相手は、不知火がぽつりと言った『愛人』という言葉がぴったり来るのかも知れない。  なんと言うか、全員に満遍なく愛を注いでる感じ。なんにせよ、日向のは次元が違いすぎて参考になりそうもない。  もう一人、参考にならないのが鷹司で、鷹司は男女どちらもいける口で、外に何人か男女とものセフレがいるらしい。校内で恋人を作ったり、誰かを部屋に呼んだりしたらトラブルになるのが目に見えているから、相手は外で探すんだそうだ。  恋愛経験もない俺には理解に苦しむが、鷹司クラスの人気者になるといろいろ大変なんだろう。肝心な恋愛経験があるのかどうかははぐらかされてしまったが、鷹司のことだから経験豊富だろうと想像出来た。  椿野は一応はノーマルらしく、茶道の門下生の彼女がいたこともあるらしかった。同性愛に偏見はないからどうなるかはわからないけどねとの台詞通り、椿野は男が恋人でも違和感がない気がするけど。  庶務の二人は同性愛者らしく、不知火は気になる下級生がいて、日下部は受け身の日向版って感じに部屋にお気に入りの親衛隊員を引き入れては、いちゃいちゃしているらしい。一番、意外だったのが風紀委員長と副委員長の二人で、御子柴は前風紀委員長と付き合っていて、橘は中学時代に後輩と付き合っていたんだそうだ。 「普通に彼女がいるのは槙村と肇先輩だけか」  そう何の気無しに呟いて、自分が口にした『普通』という言葉に疑問が沸いた。柴咲学園にとっては同性愛が普通のことで、世間的に見た『普通』は通用しない。  と言うことは、まだ恋愛の意味で誰かを好きになったことがない俺は、男と女、どっちに転んでも不思議じゃないと言うことだ。  柴咲学園に入学する前は、俺は某有名私立大学附属の幼稚舎に通っていた。そこは男女共学だったが、その頃から人見知りで人付き合いが苦手だった俺は、男の子、女の子以前に誰かと遊んだ記憶がない。  ただ一人、毎日話し掛けてくれていた子がいたような気もするが、男女、どちらだったのかも忘れてしまった。忘れてしまったと言うより、覚えていないと言った方がいい。  柴咲学園に入学すると男だらけの環境で、まだ子供だったこともあって、今まで恋愛について考えたことはなかったんだけど。  今回、ラブレター企画を開催したことで、ようやく自分が思春期真っ只中の男子高校生だったことを思い出した。今、好きな子はいるかと聞かれても恋愛対象としては誰も思い浮かばないが、好きなやつはいるにはいるんだよな。 「……寝よ」  好きなやつと考えると浮かんで来るのは皆の顔で、ふと、いつかの槙村のシャワー事件を思い出して慌てて布団を頭から被った。また、自慰の最中に誰かの顔が浮かびでもしたら(たま)ったもんじゃない。  それでも。こんな俺にも、いつか。  唯一無二の存在の恋人が出来るんだろうか。  その夜は今まで遠い存在だった恋愛について、初めて真剣に考えた夜だった。

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