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05 要side (書記)

「……ふー、こんなもんか」  最後の業務を終え、パソコンの電源を落とす。凝り固まった肩と首を軽く腕を回して解し、帰り支度をして生徒会室の電気を落とした。  生徒会に復帰してからというもの、最後まで居残ることが増えた。と言うのもその日一日の業務内容を記録しておくのも書記の仕事だからで、きっちり仕事を分担した今では羽柴よりも遅くなることも多い。  まあ、ボイコットした罪ほろぼしとでも思えばなんてことないが。 (――カチャッ) 「兄さん、お疲れ」  重い足取りで生徒会室を出ると、とっくに帰ったはずの弟の葵がドアの前に立っていた。 「なんだお前、まだ帰ってなかったのか」 「や、コンビニ行って兄さんへの差し入れ買って来たんだけど……」  葵は初等部の頃からコンビニやファストフード店が好きで、二人で暮らしていた初等部近くのタワーマンションから抜け出しては葵の世話役の笹原に大目玉を食らっていた。 「もう帰るなら一緒に帰ろう」 「ああ」 「ねえ、帰りに兄さんの部屋に寄っていい?」 「俺の部屋?」 「兄さんが高等部に上がってから、あまり会えなかったし。特別フロアの部屋も見てみたいしさ」  そう言えば高等部に上がってからは、葵が俺の部屋に来たことはまだなかった。中等部と高等部の学生寮はかなり離れているし、電話やメールは来ても直接会うことは殆どなかったな。おまけに去年の俺は、外で遊んでばかりいたし。  葵と俺は性格が正反対だが、昔から俺達はそれなりに上手くやっている。学生寮に入ってからは特に適度の距離感のお陰か、前以上に兄弟仲は良好だ。 「葵、どうせなら泊まって行くか?」 「えっ、いいの?」  リビングのソファーはソファーベッドとしても使える代物で、誰かを泊めるのに支障はなかった。 「エレベーターと俺の部屋の鍵、上に申請しとけ」 「うん。そうする」  一年生の役員は補佐止まりで、補佐には基本的に最上階の部屋は与えられない決まりになっている。つまり、このままだと葵は最上階直行のエレベーターにも一人で乗ることが出来ない。  兄弟だから恐らく申請は百パーセント通るだろうし、俺らのフロアを自由に行き来できるようにしておいた方が何かと都合もいい。 「隼人にも言っとけよ」 「うん」  葵といると、擦れ違う生徒がもれなく俺達を二度見して行く。身長は俺より少し低いが、葵は一年生にしては背が高い方だ。  おまけにタイプは違えど年子の俺達の顔はよく似ていて、嫌でも注目を浴びてしまう。 「そう言えばいつから僕と隼人、正式に生徒会役員になるの?」 「明日の全校集会で任命式をするってさ」 「そっか」 「ああ」  そんな何気ない会話をしつつ、俺達は帰路に着いた。  校門を出て、徒歩十数分で学生寮が見えて来る。とは言っても特別棟は敷地内の一番奥にあり、その最上階の一室が俺の部屋だ。 「兄さん、ごめん。ちょっとここで待って……、いや。僕の部屋で待って貰った方がいいか」  特別棟の一階ロビーには俺の帰りを待つ追っ掛けがいて、パニックを避けるためにいったん葵の部屋へ行くことにした。葵や隼人の部屋は上から三番目のフロアにあり、トラブルを避けるために人気者ほど上のフロアになるように部屋分けされている。  因みに俺らの部屋は最上階にあり、その下が風紀の橘と御子柴ら風紀幹部と前生徒会、会長、橘先輩の部屋、その下のフロアに葵と隼人の部屋はある。 「荷物置いてお泊りセット取って来るよ」  ちょっと待っててねと笑いながら、葵は自室に引っ込んだ。  通されたリビングは俺達の部屋と同じ作りのようで、ただ少しだけこじんまりとしていた。特別棟は全て一人部屋だがソファーはもれなくソファーベッドで、少なくともひと一人が泊まれるようになっている。  リビングの隅にはロフトも備え付けてあって、そこを使えばもう一人泊まることも可能だ。  キッチンを覗いてみると、思った通りしっかり使っているようだった。葵は家にいる頃からキッチンに顔を出しては、お抱えシェフが料理するのを興味深そうに見ていたんだよな。 「お待たせ。お茶も出さずにごめんね」  待つこと数分で私服に着替えた葵が現れて、改めて俺の部屋に行くことになった。

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