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06 要side (書記)

 いったん一階まで下り、最上階直通のエレベーターに乗り直す。 「相変わらず面倒臭いね」  そう笑うのには理由があって、中等部の学生寮のエレベーターも同じ状態だったからだ。 「俺らが他の階に行く時も一階の一般エレベーターに乗り換えなきゃいけないしな」 「そうそう」  まあ、俺には生徒会執行部のメンバー以外には親しいやつはいないし、葵の部屋以外に行くことはなさそうだけど。 「最上階と一階直通のエレベーターにもさ。他のフロアのボタンがあった方が便利かもね。特に最上階から他のフロアに行きたい時とかは。わざわざ乗り換えなくていいし」 「そうだな。だが、それじゃ直通の意味がなくなるんじゃないか?」    葵の言葉に曖昧に頷いた俺は、羽柴が切実にそれを望んでいたことに気付くことはなかった。  一階から最上階までは直通ってことで、ほんの数秒で目的地に着く。エレベーターを降り、手前から四つ目が俺の部屋だ。 「お邪魔しまーす」  葵は物珍しそうに部屋中を見渡して、 「あれ、なんか雰囲気変わった?」  そう言ってリビングのソファーに座った。 「そうか?」  そう言われれば確かにそうで、以前のように黒づくめの重々しさはない。それまでの俺の好みだった無機質で生活感がなかったインテリアの数々も、羽柴の影響か使い勝手のよい温かみのあるものに変わっている。  葵は珈琲に角砂糖が二つとミルクが欠かせず、淹れたての珈琲とともにテーブルに置く。 「ありがと。だってこんなものまであるんだもん」  そう言って葵が手に取ったのは、テレビの近くに置いてあるテディベア。 「ちょ、それは……」  慌てて奪い返したそれは羽柴が生徒会室の会長のデスクに飾っていた例のもので、珈琲に汚れていたのを綺麗にしたのはいいが、なかなか返せずにいるものだ。  別に秘密にしているわけでもないが、なんとなく気恥ずかしくて、 「それより葵。お前、親衛隊はどうなってるんだ?」  無理矢理話題を変える。 「ああ、うん。昨日、僕んとこに三年生の先輩が来てさ。葵様の親衛隊を作りたいけどよろしいですかって」  まるで他人事のように言って苦笑する葵は、ゆっくり珈琲カップに口をつけた。  葵には、当然だが中等部の頃はそれなりの規模の親衛隊があった。  俺が生徒会長に就任した翌年に生徒会長を務めたし、俺とは違って柔らかな雰囲気の葵は中等部の頃から抱きたいランキングでも上位に入っていた。  その親衛隊は、一度、葵の卒業で解散することとなる。高等部に進学した今年、新たに発足されることになるのだが、中等部同様、それなりの規模になると予想されていた。 「兄さんとこはどんな感じ?」 「あん? 俺んとこか? まあ……、普通だよ」  不意に質問を返されて、俺は曖昧に言葉を濁した。  自分で言うのもあれだが、抱かれたいランキング1位の俺の親衛隊は学園一の規模を誇る。今までは面倒だからという理由で制裁行為にあたる行為を禁止していたが、真面目に生徒会の仕事を始めた今は本来の理由とは違うが禁止してよかったと心から思った。  俺は親衛隊メンバーを日替わりで部屋へ呼び寄せていると思われているらしいが、面倒ごとになるのを防ぐためにセフレは外で見付けることにしている。そもそも親衛隊は対象者のファンが抜け駆けしないように互いに牽制するのを目的に作られていて、その意味ではきっちり機能してくれていると言えるだろう。 「他の先輩方の親衛隊も凄そうだねー……、ってかあれ? そういや羽柴会長に親衛隊って聞かないね」  葵のその一言に、俺はこっそり苦虫を噛み潰した。 「近々発足されるそうだ」 「そうなの? よかったね」  暢気に砂糖とミルクたっぷりの珈琲を飲んでいる葵は、羽柴がリコールされた詳細を知らない。当然、羽柴が髪を切り変身を遂げたことも知らないわけで、なんだかそれにいらついた。  俺はまだ見ていないが、羽柴が眼鏡を取るとやばいと槙村や橘が言っていた。それが知られるとまではいかないがますます注目を浴びるわけで、親衛隊もそれなりの規模になるだろう。  何故だかそれを思うといらついて仕方なかった。

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