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08
「お久しぶりですね。羽柴様」
「は? 大塚 ?」
俺はこの男の表の顔を知らない。大塚は俺と同じく人見知りで、というより人に興味がないようで、必要最小限の会話しかしたことがない。
何の話題だったかは忘れたが、大塚が興味があることに関しては夜通し語り合ったりもしたけど。
大塚は去年のルームメイトではあったが、クラスが違うために今年は全く接点がなかった。つか、去年は『羽柴』って呼び捨てだったじゃん。めっちゃタメ口だったしさ。
「大塚、お前……」
どうして俺の親衛隊長になんか……、そう聞こうと口を開けたら、大塚は唇に人差し指を宛て、俺と親しいことを秘密にするように合図を送って来た。
「あ……」
「羽柴様、お久しぶりです」
ぐるりと見渡せば、会員らしい面々の中に俺にラブレターをくれた岡崎君がいた。後で橘に聞いた話だが、岡崎君の行動は少し目立ち過ぎるため、親衛隊に入っていた方が安全だということだった。
確かに岡崎君は生徒会役員以外では俺と一番仲が良い一年生で、他の子が嫉妬してしまうこともあるんだと思う。
今まで親衛隊がなかっただけによくわからないが、親衛隊は恋に狂った生徒が暴走するのを防ぐためにあるとも聞く。お互いに抜け駆けしないように牽制し合うことで、親衛隊の持ち主に迷惑をかけずに済むのだという。
つまりは仲良く応援し合うことで、同じ人物を崇拝する者同士、仲間意識が生まれるんだろう。
そう考えてみれば、親衛隊ってよく出来てるなと思う。まさか、自分が親衛隊の持ち主になるとは思わなかったけど。
「……あーと、どうしたらいいんだ?」
皆に顔合わせしたものの、何を言ったらいいのか、何をしたらいいのかがわからない。そうこうしていると、
「まずは僕らに自己紹介をさせて頂けますか?」
そう大塚が切り出した。
俺の親衛隊自体は復帰後、すぐに設立されていたが、新歓始め、忙しさの中で今日が初の顔合わせになった。橘に隊長は俺がよく知る人物だと聞かされたが、まさか大塚だとは思ってなくて驚いた。
結局、初会合は顔見せと幹部メンバーの自己紹介で幕を閉じた。俺の親衛隊は30名ほどの小規模なものだが、親衛隊の存在が知れ渡るともっとメンバーが増えると大塚は言った。
俺の親衛隊の他にもいくつも親衛隊はあり、そこに既にかなりの隊員が在籍していることを思えば実感は沸かないが。
生徒会長に復帰してから、俺の身辺は劇的に変わった。こちらもまだ全く実感が沸かないけれど、親衛隊が後に俺を助けてくれることになるだろう。周りに誰もいなくなったところで、
「大塚!」
俺は大塚に声をかけた。
「羽柴」
「久しぶり。驚いた。大塚が親衛隊長だったのか」
「悪い。新歓が控えてたから、終わってから活動しようと考えてたんだが」
「でもなんで大塚が俺の親衛隊なんか……、はっ。まさか俺のことを!?」
「んなわけあるか」
「だよな」
結局は明確な答えは貰えなかったが、大塚が隊長なら百人力だ。
「まあ、とにかく、これからは周りの目がある時は羽柴様呼びするから」
詳しくはまたLINEでもするよと、大塚は下手くそな笑顔で笑った。
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