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[第7章]心に花を咲かせましょう
いよいよ進級テストも間近に迫り、試験勉強の方も佳境に入った。特に4月中はろくに勉強が出来なかったこともあって、今回は本腰を入れて挑 まないとやばい。そんな中、
「あ、わかった! これはさっきの公式を使うんだ!」
「そう、それです。日向君、やれば出来るじゃないですか」
「いやー、それほどでもー」
「羽柴、悪い。これの英文、どう言う意味だっけ?」
休み時間だけの勉強会では飽き足らず、久しぶりに俺の部屋に奇襲して来たA組メンバーと俺の部屋で勉強会をすることになった。
「あー、この接続詞が前にある時は……」
「ああ、なるほど。本来の意味とは全く違って来るわけか」
正直、一人でじっくり勉強したい気持ちがないわけではないが、誰かに教えるのも覚えたことの確認(復習)になり、案外いい勉強になる。槙村はある程度いい成績を取ってるだけあって飲み込みが早いし、赤点だらけの日向に教えるのも基礎から勉強し直すいい機会になった。
今回の試験は範囲が前年度の全てだが、俺にとっては逆にそれで助かった。去年なら俺はずっと学年首位だったし、授業も真面目に受けていられたし。
ただ、二年生になってからは授業について行くのも精一杯で、このタイミングで定期テストが来たらマジでやばかったかも知れない。俺は別に特待生でもなんでもないが、成績がいいのだけが取り柄のような男だから成績が落ちると正直、凹 む。
いや、今もその頃とあまり変わっていないような気もするが、少なくともなんとか生徒会長を務めていられるし、それなりに変わったのかも知れないなとまるで他人事のように思ったり。けど、自分的には変わったとは全然思えなくて、俺は深く考えるのをやめて勉強に集中することにした。
静かな時間が過ぎる。教室にいたら空調の音が聞こえてしまいそうなほど静まり返ったリビングに、ノートにペンを走らせる音だけが聞こえる。
今までは落書きだらけだった日向のノートは公式や数字、意味のある文字で埋まり、劇的に変化を遂げている。
『勉強って面白いかもー』なんて暢気 に言っていた日向だったが、
(――ぎゅるるるる)
「あ」
不意に日向の腹の虫が静寂を破った。時間を見ると結構いい時間で、ごそごそと持参したスナック菓子を漁る日向を尻目に俺はこっそりキッチンに向かう。
「鍋、はさすがにあれかなあ……」
引っ越しの時に皆に鍋を振る舞って以来、夜食に鍋を用意するのがお決まりになった。鍋なら簡単に用意出来るし、人数が増えても直ぐに対応出来る。
だがしかし、最近は朝晩に冷え込むこともなくなったし、毎回鍋だと芸がないような気もする。幸い冷蔵庫の食材は補充したばかりだが、どうするべきか思考を巡らせた。
鍋料理は種類が無数にあって、一週間毎日鍋だったとしてもメニューが被ることはない。暑い夏なら敢 えてキムチ鍋にしてもいいし、変わり種ならカレーのつけダレにしてもいい。
メニューを変えなくてもつけダレを変えるだけでも料理の幅は広がるし、和洋折衷なんでもござれだ。万能メニューでもあるのに手間もかからないし、簡単に用意出来るから鍋は夜食にピッタリなんだけど。
「暑いしキムチ鍋にしようかな……、いや、こないだもキムチ鍋にしたか」
キムチベースのつけダレで豚しゃぶにするのもありだけど、鍋にするなら変わり種がいいだろう。カレー鍋とか……、いや。
カレーのつけダレでカレーフォンデュにするのがいいかも知れない。それだと外気温は関係ないし、汗をかくようなこともないだろう。
「よし」
やっぱカレーフォンデュで行くかと腕を捲 ったその時、
「羽柴っちー、腹減ったー」
思い掛けず、直ぐ近くで日向の声がした。
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