86 / 103
11
朝から降っていた雨はいつの間にか本降りになったようで、球技大会で唯一運動場を使うサッカーの試合は明日以降に延期になった。
雨特有の蒸し暑さもなんのその、体育館の中は空調が効いていて、熱気は感じるもののむしむしする嫌な感じはまるでしない。
「きゃー! 鷹司さまぁー!」
試合前からギャラリーの歓声が凄まじく、最新設備だからだということも相俟 って、体育館の中からは雨の音は全く聞こえなかった。
ただ、サッカーが延期になったせいでサッカーに出場する予定だった生徒が押し寄せて来て、試合会場は軽いパニック状態に陥っている。バスケや卓球の会場にも分散されているものの、鷹司と橘のいるここ、第三体育館のギャラリーは鮨詰め状態だ。
報道部の活動も白熱していて、テレビカメラはまるで本場の放送局さながらのカメラワークを見せている。放送部のアナウンスも本格的で、新聞部の大きな望遠レンズも決定的瞬間を狙っていた。
そんな中、初戦で葵君たち1年S組とA組の合同チームと俺達が当たったものだから、試合も初っ端からヒートアップしたのだった。
大歓声の中、フルセットの末になんとか俺達、2年S組とA組の合同チームが競り勝った。予想を上回る白熱した試合に生徒はもとより、教師陣も興奮気味だ。
「羽柴! よくやったな!」
滅多に生徒会室に顔を出さない生徒会顧問の南雲 先生に背中をバンバンと叩かれ、思わず引き攣った笑顔を向けてしまった。
「兄さん、ちょっとは手加減してよー」
半泣きで泣き言を言う葵君に対し、エースアタッカーの隼人君は悔しそうに口を引き結んでいる。組み合わせのせいで初戦敗退となってしまったが、葵君達のチームも優勝候補だったのだ。
俺達のチームは順調に勝ち進み、なんとか決勝戦に進出した。決勝戦の対戦相手は3年F組と芸術科の合同チームで、実質的なレギュラー選手はF組のメンバーだけの最強チームだ。
「鷹司!」
試合は第一試合を凌ぐ接戦で、2セットを先取した相手チームを追い掛けることになった。なんとか追い上げてフルセットに持ち込み、最終セットも逆転してゲームセットも間近に迫ったその時、
「羽柴!」
相手チームのスパイクが俺の顔面を直撃。どこか遠くに鷹司と橘の声とギャラリーの悲鳴を聞きながら、俺は三度 、ある意味久しぶりに意識を失ったのだった。
ともだちにシェアしよう!