90 / 103
15
このところ休日ごとに作っているからか、急激に数が増えた。ボイコットされていた時は一つも作れなかったことを思うと、休日はしっかり休めているということで、それはとてもいいことなんだけど。
クローゼットに入り切れない分は、今までは実家に送っていた。実家も満杯になってからは、大きいものは児童養護施設に贈るようにしている。
小さなものは人にあげるようにしていて、特にうちの親衛隊の子達や日向の妹の実雨 ちゃんはとても喜んでくれた。因みに日向と実雨ちゃんは双子の兄妹で、実雨ちゃんは柴咲学園の姉妹校の柴咲女子学園高等部の生徒会の会長だ。
着任早々、チェロ奏者でもある彼女は音楽留学が決まり、今はウイーンに留学しているみたいだけど。
「できた!」
勿論、俺が作ったということは誰にも言ってない。俺の趣味がテディベア作りだということはリコールされた時にルームメイトだった槙村を始め、一部の人間だけが知るトップシークレットだ。
昨日、俺は球技大会の最中にボールを顔で受けて意識を失った。幸い今日は休日で、自室で休養することになり。
それより保健室で起こったハプニングが衝撃的で、俺はそれを思い出さないようにと、一心にミシンを踏んで縫い針を動かした。
「…………」
朝からふと気付けば、無意識に唇を触っている。鷹司の唇がその真横に触れた時、少し唇を掠めたような気もする。
「もしかして、俺、鷹司とキスした?」
慌てて頭を振ってテディベア作りに打ち込んだ。その結果、今日一日で5体の新しい子が仲間入りしたんだけど、目の前に迫った鷹司のドアップを思い出すたび胸がドキドキして。
『悪い。間違えた』
その一言を思い出すたび、胸が痛くなる。それがどんな意味を持つのか、考えあぐねている。
「もしかしてこれが恋……?」
だとしたら、これが初恋だ。
「んなわけないないか」
その馬鹿げた考えを頭を振って打ち消した。
言ってみればあれは事故のようなもので、昔風に言えば犬に噛まれたとでも思って忘れるべき出来事だ。きっと不意打ちであんなことが起きたから、吊橋効果のような現象が起きているに違いない。
「それにしても、昨日のことは司兄 には口が裂けても言えないな……」
俺を溺愛する家族の中でも特にそれが顕著な長兄を思い出し、思わず溜息を一つ。
『心に花は必要よ』
続けてそんな母さんの口癖を不意に思い出し、俺はまた溜息をついたのだった。
ともだちにシェアしよう!