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その日の放課後。今年度に入って初めての月例会議が執り行われた。
「以上で議論は終わりです。他に何か質問はありますか?」
会議も終盤に差し掛かった頃、議長の不知火のその一言に、
「はい。今朝発行された号外のスクープ記事のことだけど、質疑応答いいですか?」
思った通り、それまでずっと無言だった風紀委員長の橘が挙手をして鷹司に詰め寄った。
『ちょっと、鷹司、羽柴! これどう言うことよ?!』
あのあと、日下部以外のメンバーも全員やって来てちょっとした騒動になった。
『なっ?!』
どうやら鷹司が寝ぼけたあの瞬間を新聞部員にスクープされてしまったらしく、俺と鷹司が生徒会室で会議の準備をしている間に『会長様と鷹司様の熱愛発覚!』と実にうちの学校らしいタイトルの号外が出回ったのだ。
因みに鷹司の場合はネームバリューが凄すぎて、役職名で呼ばれることはない。
『ちょ、羽柴っち! これ……っっ』
皆が皆、生徒会室に飛び込んで来て。心なしか俺よりも鷹司の方に矛先が向いていたような気もするが、スクープ写真について問い詰められたのだった。
「はあ?! 寝ぼけただあ?!」
そんな言い訳が通用するかと何故かご立腹の橘の眉間には、いつもより多く縦線が走っていたりする。
「つまり、お二方は付き合っているわけではないんですね?」
橘より冷静なのは風紀の副委員長の御子柴で、どこかホッとしたようにそう言うと例の号外を手荷物の中から取り出して机の上に広げた。
うちの学校には雑誌こそないものの、報道部と新聞部とでゴシップ記事が満載の学校新聞が発行されたり、ゴシップ番組が放送されることがある。殆どが噂の域を越えないスクープで、娯楽の意味が強いスポーツ新聞やバラエティー番組みたいなもんだけど。
その常連が日向や日下部で、新聞を読む暇もなかったから知らなかったが、佐倉も転入して来た当時は常連だったようだ。
鷹司の場合、俺様でとてつもない美形の上にカリスマ性も高い。スクープには持って来いの対象だが、大人な遊びは外でしているからか、スクープされたことは殆どなかった。
俺もほんの一ヶ月前までは名前さえ知られてなかったし、新聞部に追い掛けられることもなかった。今はそれなりの有名人だからか、その号外の紙面には『ビックカップル誕生か?!』の大きな見出しが踊っている。
鷹司は『寝ぼけてキスしようとしたけど寸前で止めた』と説明したが、
「つか、これ寸止めじゃないだろ」
その問題のスクープ写真を見る限り、写真の中の俺と鷹司は完全にキスをしていた。
いつ撮られたかは新聞を見るまでもないが、あの時、保健室の窓はしっかり閉まっていたはずだ。それなのにこのカラー写真は、ガラス越しだとは思えないほど鮮明な写真で。
なんと言うか写真の腕もかなりのもので、窓の外から望遠で撮ったとは思えない見事な出来栄えだ。未だやいのやいのやっている皆をよそに、俺はそんな暢気なことを考えていた。
結局は写真に撮られただけで報道部や新聞部から取材やインタビューのオファーもないし、しばらくは様子見しようという結論に至る。
その考えが甘かったことに、その時点では誰も気付くことはなかった。
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