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03 庵side (風紀)

 手にした号外を思わず握り潰す。 「あー、くそっ!」  娯楽性の高いゴシップ記事なんだと分かってはいても、何故だかいらついて仕方がない。  鷹司はともかく、羽柴も事故だと言っていた。それだけに寝ぼけた鷹司に腹が立って仕方ないが、そもそも看病をする側なのに眠りこけてしまい、その上、寝ぼけて羽柴にキスをするとはなんたることだ。  きっと、羽柴はファーストキスだったに違いない。それだけに羽柴を襲った鷹司が腹立たしかった。 「寝ぼけただあ?! 誰と間違えたっつうんだよ」  羽柴をセフレの誰かと間違えるたあ、言語道断。 「まあまあ、委員長。熱愛じゃなかったんですから……」 「当たり前だ!」  御子柴がやんわりと執り成してくれるが、気分は全く晴れなかった。  つか、俺、なんでこんなに怒ってんだ? 鷹司が羽柴をセフレ扱いしたからか?  いや、なんかそう言うのじゃない気がする。 「もしかして、鷹司が羽柴にキスしたからか……?」  だから何だって言うんだ。その時、不意に中等部時代に付き合っていた友紀(とものり)のことを思い出した。  中等部の頃、俺には一歳年下の恋人がいた。その恋は初恋に毛が生えたような拙いものだったが、拙いなりにも俺は真剣に恋をしていた。  当時の俺は親衛隊を持つ身の生徒会役員で、友紀は一般の生徒。それが卒業間近のある日、友紀のことをよく思っていなかった隊員から制裁を受けていた友紀は突然他校に転校してしまったのだ。  制裁と言っても怪我を負うような身体的なものではなかったが、言葉の暴力や靴に画鋲を入れられる、下駄箱やロッカー、机の中を荒らされる、二階から汚れたバケツの水をかけられるといった典型的なイジメが日常茶飯事で、友紀は精神的に参っていた。  気付いていながらも助けてやれず、それがトラウマのようなものになり、高等部では生徒会役員の誘いを蹴って風紀委員に籍を置くことになり現在(いま)に至る。 「…………」  そう言えば、変身前の羽柴はどことなく友紀に似ている。だからこそ、羽柴がボイコットされていた時は、必要以上に気にしていたのかも知れない。 「羽柴、か」  つまり、羽柴は友紀に似ているから特に気になるだけで、恋愛感情はないはずだ。そう思うのに考れば考えるほど、何故か胸のもやもやは募って行くはがりで。 「友紀……」  今、目の前に友紀がいたら、羽柴に対する気持ちはまた違っていたんだろうか。正直、あんなに好きだったのに、今となってはどんな顔をしていたのかよく覚えてないほど忘却の彼方の出来事のような気もするが。  あの頃のことを思い出すと今でも胸が痛くなるけれど。目の前のことで精一杯で、友紀のことを思い出す時間は極端に減っている。 「……くそっ」  ゴシップ写真の鷹司の部分だけをハサミで切り取り、ダーツボートに貼り付ける。そのまま(ダート)を投げるとすっとした。  その時、ふと寝ぼけてキスをしてしまった鷹司がどんな気持ちでいるのかが気になった。見た目は普段と全く変わらなくは見えるが、意識的にそうしているようにも思えて。  その時の俺は、自分の気持ちを持て余していることに気付かずにいたのだった。

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