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05 要side (書記)
号外記事を見て溜息を一つ。
「『熱愛発覚!?』ねえ……」
新聞部のゴシップ記事は噂の域を越えないものだけで、今回の『熱愛発覚』も最後に『!』(ビックリマーク)と『?』(クエスチョンマーク)が一つずつ付いている。
当然、裏付け調査もなく発行したらしっぱなしだ。どうやら歓迎ムードみたいだが、生徒総会ででも釈明会見のようなものをした方がいいだろう。
あれは事故のようなもので、寝ぼけて思わずキスをしてしまった。保健室に羽柴を運び込んだ後、ずっと羽柴の唇を見ていたせいかも知れない。
ボイコットをしていた頃、羽柴の唇は痛々しいほど荒れていた。手入れしていないであろうことに加え、健康状態も悪かったからだろう。
今回はボールが当たったことが原因の軽い脳震盪 で、おそらく体調には関係ないからだろうが唇はもう荒れてはいなかった。一部の生徒のように手入れが行き届いたつやつなそれじゃないものの、思わず触れてみたくなって。
ベッドで眠っている羽柴はとても綺麗な顔をしていて、思わず見惚れた。コンタクトレンズをまだ着けたままだったことが気になったが、何と言うかまるで眠れる森のなんとやらのようで。
そのうちベッドサイドで眠ってしまい、目が覚めた時に羽柴がベッドから身を起こしていたもんだから思わず唇を寄せてしまった。実は夢の中で、俺は羽柴とキスをしていた。
そのまま目覚めたけど覚醒し切れず、夢と現実がごっちゃになってしまったのも原因だろう。羽柴には寝ぼけたと言い訳したが、実は正確には寝ぼけているわけではなかった。
確かに寝起きだし頭はまだ動いちゃいなかったが、誰かと羽柴を間違えたわけじゃないのは確かだ。
「キス、か」
羽柴は口の端に触れただけだから気にするなと言っていたが、一瞬だが確かに唇が触れ合った。正直、セフレにねだられてしたのが最後でもう一年はキスをしていない気がする。
セックスはするけどキスはしない。きっとセックスがしたくなるのは男の生理現象で、キスは愛情が伴わないとしたいとは思わないからで。
「羽柴、か」
ボイコットをしていた頃から、何故だか無性に気になって仕方がなかった。屋上から生徒会室を覗いて、毎日、羽柴の様子を窺 っていた。
弱音を吐かない羽柴にムカついたのは最初のうちだけで、新しい羽柴を知る度に胸が騒いで。
「……くそっ」
ファーストキスに間違いないだろうに、飄々としている羽柴に腹が立つ。少しは動揺してくれても……、そんな女々しいことを考えている自分にも。
「鷹司、休憩しない?」
今頃、羽柴は自分の親衛隊員達に言い訳しているはずだ。それを思うとまたムカついて、椿野が淹れてくれた紅茶に口をつける。
(…………ん?)
椿野も羽柴と同じように普段と全く変わらないが、紅茶に口をつけた時、僅かに違和感を感じた。
椿野いわく、その時々の心理状態がお茶の味に反映するんだそうだ。そう言えば椿野は、子供の頃から自分の気持ちを隠すのが上手かった。
もしかして、もしかしなくても、その椿野も動揺してるのか?
今まで全く目立たなかった羽柴。俺が知る限りでは、これが初めてスクープだ。
「ねえ、鷹司。本当に羽柴とはなんでもないの……?」
もしかして、椿野もかなり動揺しているのかも知れない。俺は紅茶にも砂糖は入れない派なんだが、違和感の正体は砂糖で間違いないだろう。
「あるはずないだろ」
そう言いつつ、僅かに感じる優越感のようなものに戸惑った。もしかして、もしかしなくても俺は羽柴のことを……。
「……ちっ」
手元にあったテディベアを思わず探して舌打ちを一つ。
このあと動揺を見せないようにするあまり、今まで以上に羽柴に冷たい態度を取ってしまい後悔することになる。
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