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4月 和樹、購買へ行く

 食堂に行くには、一度寮を出なければならない。購買もまた然りだ。  ここの寮は住居スペースのみで食堂や大浴場、遊戯室? などは、また別の建物内に存在する。距離はそんなに遠くないが、メシや風呂の為に外に出るのは正直めんどくさい。 「へくしゅっ」  俺はまた鼻をすする。  どんだけ桜植えてんだよ、この学校。花粉大量生産しまくりじゃねーか。  マスクも買わなきゃな……。ちくしょー花粉症め!  俺は購買へ向かう足を速めた。  購買はコンビニみたいなものだ。食料の他に文具や生活用品も売ってる。レジ横には大量のマスクが並んでた。  皆、大変なんだな。まぁ俺もだけど、などと思いながらその山の中からひとつ手に取る。 「あれ? 君も花粉症?」  声のする方を見ると、ニコニコ笑う爽やかな男が立っていた。 「そだよ。お前も?」  見た感じ目も鼻も赤くなってないが、マスクするだけでも気分が違うもんな。 「のどイガイガしててさ。俺、アメちゃん買いに来たの」  なるほど、確かに声が少し掠れてるようだ。 「お互い大変だな」と言い残して別の売り場に行こうとした俺を、彼が呼び止める。 「俺、2Aの奥村哲也(おくむら てつや)っての。てっちゃんって呼んで」  爽やか君こと、てっちゃんはキラキラしたオーラを振り撒いて「君は?」と尋ねてくる。  初対面でここまでグイグイ来られると少々引くが、まぁ新学期のノリということで俺も答えた。 「2Bの瀬川。じゃ」 「え、ちょ、そんだけ!? 待ってよ、コレあげるから!!」  てっちゃんは意外としつこい。モノで釣ろうだなんて、俺もナメられたものだな。 「しつけぇー……よ?」  断ろうとした俺に、差し出される彼の手。その上にはミント味のスースーするアメちゃん。  まさかこれは――。 「瀬川くんも、のど痛いんじゃない?」  俺はいとも簡単に堕ちた。

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