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4月 和樹、食堂へ行く
そして今、俺がいるのは食堂――の裏口。ここはいつ来ても開いてる。
扉を開けて俺は中へ入った。
「こんばんはー! 平ちゃんいる?」
「おう、和樹じゃねぇか!」
大きな寸胴を抱えてこちらにやってきたのは、白い手拭いを頭に巻いたラーメン屋の大将――じゃなくて白石平輔(しらいし へいすけ)。ここの料理長だ。
年は三十代半ばと聞くが、年齢を感じさせないナイスミドルである。ちなみに俺は『平ちゃん』と呼んでる。
「平ちゃん、今何やってんの?」
「明日の仕込みだよ」
どう見てもラーメンのスープに見えるんですが。朝からラーメン出すのかな。
平ちゃんは見た目を裏切らないほどの、ラーメン作りの達人だ。彼の麺から作るラーメンは絶品なのである。
「つか和樹。てめぇ、またメシたかりに来たのか?」
「頼むよ~。俺と平ちゃんの仲だろ?」
他のヤツには言うなよと言って、平ちゃんは寸胴を置き俺を手招いた。
「こんな時間じゃなぁ。残りもんの煮付けと飯しかねぇけど、それで良いか?」
「ラーメンは?」
俺は寸胴を指差す。
「ばぁか。ありゃ明日の分だって言っただろ」
俺は調理場の隅に座って、平ちゃんの仕事ぶりを観察する。やっぱり手際が良い。まぁプロだし当たり前だけど。
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