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4月 和樹と料理長の平ちゃん

 出された料理は、白いご飯と野菜の煮付けだ。 「金はいいからとっとと食え。俺は仕事中なんだよ」  平ちゃんからのお小言は毎度のことだ。もちろん平ちゃんもわかって言ってる。 「いただきます」  よく味の染みたジャガイモは、ちょっと煮崩れてる。俺はこのくらいの煮物が好きなのだ。  平ちゃんは和、洋、中、何でも作れるが、俺はやっぱり彼の作る和食が一番美味いと思ってる。本人はラーメンが一番だと常々言ってるが。 「美味しいよ大将」 「大将言うな」  平ちゃんは、仕込みやら後片付けやら大変そうだ。  こんな時間なら、他の人は帰っちゃったのだろう。責任者の平ちゃんは、最後まで残って仕事するのだ。  俺は彼の負担を少しでも減らす為に、早く食事を済ませた。空になった食器を洗い場へと持って行く。 「ごちそうさま。ここ置いとくね」 「助かるわ、ありがとな」  平ちゃんは疲れ知らずなのか、この時間でも白い歯をキラっと光らせて笑顔で応えてくれる。  そうだ笑顔と言えば――。 「平ちゃん、俺、友達できた」  俺の言葉に、作業する手が止まる。平ちゃんは俺に向き合い、本当かと尋ねた。 「うん。二年のてっちゃん。知ってる?」 「哲也だろ。あいつ有名だぜ」  そうなのかと顔で聞き返す。 「哲也は良いヤツだ。良いダチができてよかったな、和樹」 「まだ初日だけどね」  そう言いつつも俺は嬉しかった。てっちゃんとダチになれたのもそうだが、平ちゃんがここまで喜んでくれるとは思ってなかった。彼には去年、いっぱい迷惑をかけたから。 「ありがと平ちゃん。あ、アドレス交換しない?」  平ちゃんは作業に戻ろうとした、手を止めて言う。 「俺の知らんかったっけ?」 「知らないから教えてよ」  俺は自分の中の何かを変えようと、動き出すことにした。てっちゃんのおかげだ。その何かへの第一歩は、友達の輪を広げることだと思う。 「まだ仕事中だから、紙か何かに書いてくれ。俺からまた返すから」 「りょーかい」  俺は近くにあったメモに自分の番号とアドレスを書きこみ、食堂を後にした。

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