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4月 見ちゃった……。
平ちゃんと別れて寮へと戻る。大浴場は苦手なので、部屋のシャワーで済ませるつもりだ。
部屋に戻ってタオルや洗面用具を用意し、シャワーへ向かう。
ドアに手をかけた瞬間、それは内側から開いた。
「え?」
「!」
風呂上がりの千葉と、ばったり鉢合わせた。千葉は、上は裸で下はスウェットを履いている。そして――。
「お前、それ」
千葉は何も言わずに、自分の部屋へと入ってしまった。
俺は急いでシャワー室へ入り、ドアを閉めた。
「うわぁ……」
こんなに早く、彼の秘密を知るとは思ってなかった。
千葉のニット帽の下には傷痕があった。左のコメカミから、上へ走る大きな傷。確かに目立つ痕だった。
千葉はそれを隠す為に、帽子を被っていたのだ。
「……俺サイテーだ」
同室者なんだから、遅かれ早かれこうなることはわかっていた。
でもあの傷痕を見た瞬間、俺の中には同情心や罪悪感が湧いてしまった。見てないフリをして流すこともできたはずなのに。
「明日からどーしよ」
話すほど仲良くなったわけじゃないのに、初日そうそうこんなに気まずくなってしまった。俺は熱いシャワーを浴びて、さっさと個室に戻った。
ケータイを見ると、知らないアドレスからメールが届いてた。
メールを見ると送り主は平ちゃんだった。そういえば彼の名字は白石だ。色黒の平ちゃんに『白石』は似合わない。思わず口元が緩む。
『辛くなったら何時でも来い。白石平輔』
「……」
本当に平ちゃんは良いタイミングで俺を支えてくれる。
「ありがと平ちゃん、と」
そう返し、俺はベッドに潜りこむ。
大丈夫、明日の事は明日にならないとわからない。今日悩んだってしょうがない。クヨクヨすんな俺。
「明日……千葉に謝らなきゃ……」
いつの間にか俺は眠っていた。
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