12 / 118

4月 和樹と千葉とニット帽

 翌朝、俺は部屋のドアをドンドンと叩かれる音で、目を覚ました。どうやら寝坊してしまったらしい。  叩いているのは千葉だろう。何かますます気まずいじゃねーか!  俺がワタワタとしてると、千葉から声がかかった。 「瀬川起きてるか? いるなら返事しろ」 「お、おう! すぐ行く!」  俺は慌てて衣服を整え、ドアを開けた。 「悪りぃ、ありがと千葉……って」 「どした?」  俺は目を丸くして驚いた。千葉のトレードマーク(?)であるニット帽が無い。  改めて見ると痛そうな傷痕だ。俺は思わず目をそらしてしまった。  それを見て千葉は俺の頭に手を乗せ、ポンポンと叩いた。 「お前の気にすることじゃねぇよ。昨日は悪かったな」  じゃあ遅れるなよ、と千葉は踵を返し、部屋から出ようとする。俺は彼を呼び止めた。 「千葉っ! 俺、お前に言わなきゃなんねーことが――」 「そんなもん要らねぇよ。時間ねぇから、先行くぜ」  千葉は俺をかわして、さっさと出て行こうとする。  寝起きということも手伝って苛ついてた俺はプツンとキレた。 「何だよ! てめぇハゲじゃねーのかよっ!」  興奮してゼーゼーと肩で息をする俺。  その場で固まって俺を見る千葉。  カチカチと時を刻む秒針。  妙な空気を打ち破ったのは、千葉だった。 「はははっ! 誰がハゲだバーカ!」  千葉はどうやらツボったらしく、未だに笑いが治まらない。  てか千葉ってこんなヤツだっけ? キャラ違くね?  ひとしきり笑いが治まって、はぁーと長いため息をついた千葉が俺を見る。 「お前は不思議なヤツだな瀬川……ありがとな」 「……え?」  すでに制服に着替えていた千葉は、自室にニット帽を取りに行き、それを被った。 「お前とか傷のこと知ってるヤツの前なら被らんけど、やっぱ目立つしな」 「……何なら俺がハゲ疑惑振りまこうか」 「遠慮するわ」  千葉は近寄りづらい男だと思ってたが、今朝の彼はかなりリラックスしてるように思える。もしかしたら、こっちが素なのかな。  この調子なら一年間やっていけそうだ。  あ、忘れてた。友達の輪作戦を決行せねば。 「そうだ千葉。アド交換しよ」 「ああ、QRコードでいいか?」  ――残念ながら、彼もまたスマホユーザーでした。

ともだちにシェアしよう!