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5月 サボリ魔・瀬川和樹

「へーっくしゅっ」  誰かに噂されてるような気がする。  俺こと瀬川和樹は、いつものように風紀の仕事をサボリ、裏庭にあるベンチへ向かっていた。  委員長や辰兄には悪いと思ってるが、俺だってやりたくて引き受けた仕事じゃない。  あ、辰兄ってのは副委員長サマのあだ名である。てっちゃんがそう呼んでたので、俺もそう呼ぶことにした。  俺のサボリスポットのひとつである校舎裏にあるベンチには、基本的に誰も寄りつかない。  日当たりは悪いし、どうせサボるなら屋上に行くからだ。  俺は人が来ない場所で堂々とサボる派だから、ここのベンチはうってつけなのだ。  俺は意気揚々といつもの角を曲がり、ベンチへ辿り着いた――のだが。 「え?」  何とそこには先客がいた。  ベンチに仰向けに寝転がり、気持ち良さそうに爆睡してる男。そして――。 「ヨダレ出てんぞ、こいつ」  赤茶色の髪に、すっと通った鼻筋。眠っていても整った顔をした、いわゆるイケメンなのだが、口から流れるヨダレがすべてを台無しにしていた。  てか、誰だこいつ。  俺の神聖なサボリ時間を、潰しやがって……。 「こんな所で寝てたら、風邪ひきますよー」  俺はまずヤツを起こして、それからベンチを取り戻すことにする。初めは親切なフリをするのが俺流だ。 「起きてくださいよー」  ヤツの身体を揺らすが、なかなか起きない。何だこいつ、図太い神経してやがるな。  俺は起こすのを諦め、ヤツから離れようとしたのだが――。 「!」  俺は今、ヤツの上にのしかかってる状態である。  突然腕を引き寄せられ、その両腕に抱きこまれてしまった。  ヤツの腕の力は強く、簡単に引き離すことはできない。  ――てか、何のフラグだこれ!? 「ちょっ、マジ離れてください」  ネクタイの色から察するに、こいつは三年、つまり上級生だ。  こちらからは下手に手出しができない。たちが悪い相手だ。 「俺、ほんとキレますよ!」  ヤツはさらに強く俺を抱きしめ、首筋に顔を埋めてきた。  寝ぼけてるのかこいつ?  てかヨダレつくから止めろ! 「いい加減にし――っつ」  そのままヤツは、俺の首筋に噛みついた。

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