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5月 和樹、不審者に遭う
あまりのことに、俺は呆然とした。
ヤツは噛んだ箇所を、舌でチロチロと舐める。
我に返った俺は、思い切りヤツを突き放していた。
ゴンっと嫌な音がする。ベンチに頭を打ちつけてしまったようだ。
だがその衝撃で、ヤツはようやく目覚めた。
「痛……っ」
上体を起こし後頭部をさすりながら、その男は呟く。
怪我とかしてないだろうか。元凶はこの男だったとしても、少々やり過ぎたかと俺は不安になる。
「あのー。頭、大丈夫ですか」
俺はおずおずと尋ねる。その途端、ヤツが俺に詰め寄る。どうやらここにきて、俺の存在を認識したようだ。色素の薄い茶色の目で、俺をじーっと見つめてくる。
「何スか……」
すると今まで訝しげだった表情は、一気に晴れやかなものになっていた。
「お前が瀬川か!」
「は?」
初対面から名指しされた。何者だこいつ。
「隼人から聞いてるぞ。風紀のサボリ魔・瀬川って、お前のことだろ!」
どうやら委員長経由だったそうです。
このままここにいると告げ口されそうな気がして、俺はこの男から離れようとした。
「俺がサボってたこと、内緒にしてもらえません?」
「隼人に? 言うわけねーだろ。俺がしばかれる」
ヤツは、おお怖ぇえとばかりに肩を震わせた。
「ありがたいっス。じゃ俺はこの辺で……」
「もう行くのか? お前もサボリだろ?」
「も?」
「俺もさぁー、仕事めんどくせぇから逃げてんだ。お前と同じだろ?」
ということは、この人は俺と同じサボリ魔になるのか……。何だか複雑である。てかこの人は何をサボってるんだろう。
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