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5月 藤田大和

 藤田大和(ふじた やまと)がベンチに辿り着いたときには、すでにふたりの姿はなかった。  また逃げられたのかと、大和はベンチに座り、頭を抱える。不甲斐ない結果だとしても、報告は怠れない。大和は覚悟を決めて電話をかけた。 「あ、藤田です。すいません副会長。逃げられました」  電話の向こうからは、はーっとため息が聞こえる。 「はい……はい……了解です。すぐ戻りますね」  通話を終えた大和は、先程見た光景を思い出す。  走り去る後ろ姿しか見えなかったが、会長が引っ張っていた男は誰だろう。少し気になった。  だがいつまでもここにいては、副会長の迷惑になるので、すぐさま生徒会室に戻ることにする。  ベンチから立ち上がり、歩き出そうと踏み出した足に、何かが触れた。  それは今では少数派の、折り畳み式の携帯電話だった。  会長はスマホだし、これはアイツの物か。  いけないとはわかっていた。だが、これは落とし物で、持ち主を知る為に必要なことなんだと自分に言い訳をし、大和は落とし主のプロフィールを見た。 「『瀬川和樹』か……」  聞き覚えがあるようでない名前。まぁ向こうから連絡があるかもしれないし、しばらく預かっておくか。  大和は和樹のケータイをポケットに入れ、生徒会室へと向かった。

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