29 / 118
5月 和樹、ガラケーを無くす
「ケータイ無くした?」
「そーなんだよ。落とした場所行っても見つかんなくてさ。これ、ヤバいよな」
俺は来た道を引き返してベンチまでの道のりを探したが、ケータイは見つからなかった。
途方に暮れてた俺は、近くを通りかかった千葉に相談したのだ。
「誰か拾ってくれてるんじゃねーの? 届けられるの、待てば?」
「そいつが持ち逃げしたらどーすんだよ」
「ガラケーなら大丈夫だろ」
「お前ガラケーバカにすんなよ!」
冗談だと千葉は笑うが、俺は真剣だ。
あのケータイには大事な俺の個人情報が詰まってるんだからな。
つーか俺だけじゃなくて、千葉やてっちゃんの情報も入ってる。お前も他人事じゃねーぞ。
「どーすりゃいいんだよ……」
「寮長んとこ行けば?」
「はぁー? ノムさんとこ?」
「あの人あれでも寮長だから、落とし物とか預かってるかもしれない」
「そっか、サンキュー千葉! 俺行ってみる」
「あ、瀬川。伝言」
ノムさんの所へ向かおうとした俺を、千葉が呼び止める。
「誰から?」
「辰己さんから。風紀の仕事しろってさ」
「今更じゃん。ケータイのが大事だから、俺もう行くからな」
仕事も大事だけど、個人情報の方がもっと大事。
千葉が呼び止める声が聞こえるが、俺は何も聞こえないフリをして、ノムさんがいるであろう寮長室へ向かった。
ともだちにシェアしよう!