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5月 和樹、ガラケーを無くす

「ケータイ無くした?」 「そーなんだよ。落とした場所行っても見つかんなくてさ。これ、ヤバいよな」  俺は来た道を引き返してベンチまでの道のりを探したが、ケータイは見つからなかった。  途方に暮れてた俺は、近くを通りかかった千葉に相談したのだ。 「誰か拾ってくれてるんじゃねーの? 届けられるの、待てば?」 「そいつが持ち逃げしたらどーすんだよ」 「ガラケーなら大丈夫だろ」 「お前ガラケーバカにすんなよ!」  冗談だと千葉は笑うが、俺は真剣だ。  あのケータイには大事な俺の個人情報が詰まってるんだからな。  つーか俺だけじゃなくて、千葉やてっちゃんの情報も入ってる。お前も他人事じゃねーぞ。 「どーすりゃいいんだよ……」 「寮長んとこ行けば?」 「はぁー? ノムさんとこ?」 「あの人あれでも寮長だから、落とし物とか預かってるかもしれない」 「そっか、サンキュー千葉! 俺行ってみる」 「あ、瀬川。伝言」  ノムさんの所へ向かおうとした俺を、千葉が呼び止める。 「誰から?」 「辰己さんから。風紀の仕事しろってさ」 「今更じゃん。ケータイのが大事だから、俺もう行くからな」  仕事も大事だけど、個人情報の方がもっと大事。  千葉が呼び止める声が聞こえるが、俺は何も聞こえないフリをして、ノムさんがいるであろう寮長室へ向かった。

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