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5月 千葉、死ぬほど後悔する
千葉は307号室へ行ったことを、死ぬほど後悔した。
あらゆる可能性は想定していたが、その中でも最悪な結果になってしまったからだ。
「珍しいな陽平。お前がひとりで来るとはな」
――何で隼人さんしかいないんだよ!
せめて、辰己さんもいたら楽だったのに……。
しかし千葉は、それらの思いを一切顔に出さずに答える。
「いや……ちょっと探し物がありまして……」
「奇遇だな。俺らも探し物があるんだ。それで皆、出払ってるんだよ」
取りあえず、俺を睨むのは止めてほしい。隼人の虫の居所が悪いのは明白だった。
「ちょこちょこと逃げ回るヤツでな。見つけても、すぐに逃げちまう。なぁ陽平、ヤツを捕らえるためにはどうしたら良いと思う?」
「さぁ、俺に聞かれても……」
「お前なら何か知ってるんじゃないか?」
「……そういえば、裏庭に向かうって言ってましたよ」
千葉は隼人の鋭い視線から逃れられる気がしなかった。正直に見たままのことを話す。
それを聞いた隼人は、懐からスマホを取り出し、ある男に電話する。
「……哲也か。ヤツは裏庭に向かった。すぐに向かえ」
これは仲間を売ってしまったことになるのか?
自分のせいでアイツに何かあれば、同室者として顔向けできない。千葉は通話を終えた隼人に尋ねる。
「瀬川、どうなります?」
すると意外な答えが返ってきた。
「和樹? 知らん」
「……は?」
「お前、何か勘違いしてるんじゃないか」
千葉はここにきて、初めて隼人との会話が成立していないことに気づいた。
「じゃあ探し物って……」
「察しろ」
ようやく、その答えに辿り着く。
「……了解っス」
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