36 / 118

5月 隼人の悩みのタネ

「で、お前の用件は何だったんだ?」  隼人は目の前の長身を見上げて、問いかける。  互いの会話が噛み合わなかったのには途中で気がついたが、もうひとつの目的のために、あえて指摘しなかった。  相手がボロを出すのは、思いの外早かった。それを哲也に伝え、自分のすべきことにひとつケリがついた。そしてようやく来訪者の目的を思い出す。 「いや、隼人さんに言うほどのことじゃないですよ」 「俺の力は信用できんか?」  隼人はその眼差しに力をこめ、相手を見やる。  やがて千葉は、ぼそりと言葉を紡いだ。 「瀬川のヤツ、ケータイなくしたらしいです」 「……はぁ?」 「だから言うの嫌だったんですよ」  千葉は隼人から、目をそらし続ける。  なるほど、確かに俺には話しづらかっただろうなと隼人は思う。おそらく辰己あたりに伝えるつもりだったのだろう。  しかし、だからといって和樹を放っておくことはできない。仕方がない。手を貸してやるとするか。 「こっちでも探させる。お前はもう行っていいぞ」 「忙しいとこ申し訳ないです。それじゃ」  千葉は軽く会釈をして、教室から出て行った。  隼人は辰己に事情を伝えると、近くにあった椅子に腰を下ろし、長いため息を吐いた。 「あの馬鹿野郎」  自身の悩みの大半を占める元凶を思うと、頭が痛くなる。だが不思議と切り捨てようという考えにはならなかった。

ともだちにシェアしよう!