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5月 隼人の悩みのタネ
「で、お前の用件は何だったんだ?」
隼人は目の前の長身を見上げて、問いかける。
互いの会話が噛み合わなかったのには途中で気がついたが、もうひとつの目的のために、あえて指摘しなかった。
相手がボロを出すのは、思いの外早かった。それを哲也に伝え、自分のすべきことにひとつケリがついた。そしてようやく来訪者の目的を思い出す。
「いや、隼人さんに言うほどのことじゃないですよ」
「俺の力は信用できんか?」
隼人はその眼差しに力をこめ、相手を見やる。
やがて千葉は、ぼそりと言葉を紡いだ。
「瀬川のヤツ、ケータイなくしたらしいです」
「……はぁ?」
「だから言うの嫌だったんですよ」
千葉は隼人から、目をそらし続ける。
なるほど、確かに俺には話しづらかっただろうなと隼人は思う。おそらく辰己あたりに伝えるつもりだったのだろう。
しかし、だからといって和樹を放っておくことはできない。仕方がない。手を貸してやるとするか。
「こっちでも探させる。お前はもう行っていいぞ」
「忙しいとこ申し訳ないです。それじゃ」
千葉は軽く会釈をして、教室から出て行った。
隼人は辰己に事情を伝えると、近くにあった椅子に腰を下ろし、長いため息を吐いた。
「あの馬鹿野郎」
自身の悩みの大半を占める元凶を思うと、頭が痛くなる。だが不思議と切り捨てようという考えにはならなかった。
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