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6月 三寮長
時は少し前に遡る。
その部屋には三人の生徒が集まっていた。三人はひとりひとつの長机を占拠し、ホワイトボードに向かって平行に座っていた。
彼らはある人物を待っている。
一番廊下側に座るのは、ノンフレームの眼鏡をかけた陰湿そうな男。机の上にきっちりと置かれた資料等から、几帳面な性格だとわかる。
対して窓側の席に座っているのは、明るく髪を染め、ジャラジャラとアクセサリーを身に着けた派手な男。彼はスマホを片手に、誰かとNINEをしているようだ。頻繁にピコーン、ピコーンと音が聞こえる。
そして真ん中の席を陣取るのは、肩まで伸びた長髪が若干見苦しい、老け顔の男だ。しかし彼の目は真剣そのもので、しきりに時間を気にしている。
ある人物との約束の時間は、すでに過ぎていた。
その間、三人の会話はない。それぞれが出す負のオーラが、その教室を支配していた。
それからさらに十分が経ち、ようやくその男が姿を現した。
「悪いな皆、色々あって遅れた」
陰湿男と老け顔、もとい野村北斗 の視線がグサリと刺さる。派手な男はスマホをしまい、にこやかに彼を迎え入れた。
「よぉ、遅かったな北村!」
三人と向かい合うように正面の席に座った北村秀一 は、とぼけた雰囲気を一変させて場の空気を締めた。
「さて、始めるか。今日はトップだけの顔合わせだが、これも大事な過程だ。よろしく頼むよ」
秀一の言葉に、派手な男が発言する。
「隼人はどうしたんだ? 風紀委員長サマがいなきゃ、マズいんじゃないの?」
「隼人は風紀のミーティングがあって、こちらに来られないそうだ」
「アイツも大変だなぁ。今年は一段と忙しそうだな、アイツら」
まさに他人事といった彼の態度に、陰湿男が口を開く。
「徳島くんたちの態度に問題があるのではないのですか?」
「……は?」
ふたりの間で火花が散る。
間に挟まれた野村としては、早くこの場から抜け出したいというのが本音だ。しかし、こうなってしまったふたりを抑えることが、野村の役割でもあった。
野村は目の前に座る生徒会長の先を促す。
「秀一、それで今日の顔合わせの目的は何だ?」
秀一は手元にあったプリントを三人へ配りながら説明する。
「簡単に話は伝わっていると思うが、来月に新入生歓迎会がある。次回行われる実行委員会までに、各寮それぞれ食品バザーで出すメニューを考えておいてくれ。それから各学年からひとりずつ、実行委員メンバーを召集すること。以上だ。何かあれば、いつでも俺に聞いてくれ」
こうして第一回目の会議が終わった。珍しく多忙な秀一は、この後すぐに別の用事があると言って、真っ先に教室を出た。
残った三人も、それぞれ荷物をまとめ、順に教室を出る。
鍵を借りた野村は、施錠のチェックをして明かりを消し、最後に教室の鍵を閉める。教員室へ鍵を返しに行く道すがら、野村は今日の議題について考えていた。
六月に行われる新入生歓迎会では、各寮が食品バザーを出すことになっている。この日は土曜日で、食堂が開いていないからだ。
したがって、それなりの食事でなければならない。これが厄介なのだ。
「しょーがねーか」
野村は頭を掻いて、教員室への道を急いだ。
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