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6月 黒猫とイケメン寮長
「なぁ、お前ら黒猫知らねーか?」
振り返るとそこには、明るい茶髪を逆立てたイケメンが立っていた。
ピアスやアクセをジャラジャラ着けてて、何だか怖そうだ。
いつもなら関わりたくないタイプだが、俺はひとつ気になる情報を耳にした。
「黒猫?」
「あぁ、この辺に逃げ込んだはずなんだけど……って、あれ?」
イケメンさんは俺らに近寄ってきて、隣のニット帽男を覗きこんだ。
「千葉じゃねーか! 久しぶりだな!」
「……どもっス」
「え、千葉知り合い?」
何ということだ。千葉に俺ら以外の知り合いがいるなんて。
あんまり人と関わらないイメージがあるからビックリした。
千葉は戸惑い気味に口を開いた。
「この人はCクラスの寮長の深月さんだ」
「Cの寮長?」
俺はイケメンさんをまじまじと見る。
Cクラスはスポーツに力を入れているコースだ。この人はあれだ。
「サッカー上手そうっスね」
「お! わかるヤツだなお前。気に入ったぞ」
なぜか気に入られました。
イケメンさん――この呼称ムカつくな、えーと寮長さんは続ける。
「俺は三年の徳島深月。Cの寮長で、あとサッカー部のキャプテンだ。お前は?」
「あ、瀬川です。えーと徳島センパイは……」
「深月でいいぞ」
「じゃ深月センパイ、黒猫がどーとか言ってましたけど……?」
俺は本題を切り出した。
「あ、そうだ忘れてた。俺がさっき見つけたんだが、逃げちまってよ。瀬川見てないか?」
「俺は知らないっス」
「千葉は?」
「見てないですね」
「マジかー。まぁしょうがねぇか……」
深月センパイは明らかに落ちこんでる。何だかわかりやすい人だ。
「あのー、俺探しましょうか?」
「マジで!」
「は、はい」
すごい勢いでセンパイは喜んだ。単純な人だな。
「センパイが探してる黒猫って、どんな子ですか?」
「黒くて毛がモフモフしてんだ!」
大概の黒猫はそうですよ、とは言えず俺は苦笑いした。
あれだ。こんな俺でも、一応先輩には気を遣うんだぜ。
「あ、でも名前は決まってるぞ」
「もう名前つけちゃったんですか」
「K.U.R.O.……KUROだ!」
「ださっ!」
前言撤回。何だそのネーミングセンス。黒猫だからKUROとか。しかもアルファベット表記。
「あーもう、千葉行こ」
「え……?」
「深月センパイ! 俺ら行きますからね!」
「あ……あぁ」
深月センパイが精神的ダメージを受けたとか知らない。
俺は無理矢理千葉を引っぱって裏庭を後にした。
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