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6月 和樹、後輩を持つ
「じゃ、むっちゃん。ふつつかな同室者ですが、これから千葉をよろしくお願いします」
「はぁ? 何言ってんだよ」
「そちらさん、まだやることあるでしょ。俺先に帰るわ。むっちゃん頑張ってね!」
「はい! 和樹さんもお仕事頑張ってくださいね」
俺は千葉を残して会議室を出た。
あ! そうか!
これが『後輩を持つ』という自覚か!
高校に入ってからできた初めての後輩に、俺の心はハイテンションである。誰かにこの感動を分かち合ってほしい!
誰かいないかと周りをキョロキョロと探すと、廊下の先に重そうな資料を持った宮崎先輩がいた。俺は迷わず声をかける。
「宮崎先輩!」
「あぁ、瀬川か。どうしたんだ?」
先輩は立ち止まって振り向いた。
「手伝いますよ。どこまで運ぶんですか?」
「生徒会室の横の資料室さ。遠いけど大丈夫か?」
「それくらい大丈夫ですよ!」
「そうか。ありがとう、助かるよ」
俺は先輩から資料を半分受け取り、ふたりで足を進める。
会議中の宮崎先輩は、ひたすらノートに向かっていて、何て言うか仕事ができる男みたいな、近寄り難いイメージだった。
でも俺は今みたいに優しい先輩も好きだ。
「そうだ、聞いてくださいよ。俺、初めて後輩ができたんです! むっちゃんって言って、何とゆーか、豆柴的な守ってやりたいなーみたいな……とにかく嬉しいんです!」
こんなめちゃくちゃな言葉で伝わるか心配だったが、そこはさすがの宮崎先輩。正確に俺の意図を理解してくれた。
「いつになっても後輩は可愛いものだ。俺も瀬川のことを可愛い後輩だと思っているぞ」
「本当ですか! ありがとうございます宮崎先輩!」
そうか。二年生って先輩でも後輩でもある、不思議な学年なんだなー。
優しい先輩にも可愛い後輩にも恵まれていて、俺ってツイてる!
それからの時間はあっという間に過ぎた。
気がつけば俺たちは、新入生歓迎会当日を迎えたのである。
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