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6月 和樹、ムシムシする…
「ムシムシする……」
六月のなかば、いわゆる梅雨の時期である。
新入生歓迎会当日も曇り空で、天気予報によると夕方から雨が降るらしい。
俺はシャツのボタンを第二まで開け、ネクタイを緩めるが、このムシムシ感は変わらなかった。
本来ならいつも通り仕事をサボって、空調の効いた図書室にでも逃げこもうと思っていたのだが、現実は甘くなかった。
おそらく上層部(バ会長とか委員長とかノムさんとか)の策略だろう。
「あームシムシする!」
「やめろよ和樹。こっちまでダルくなるだろ」
「うるさいなー。ハブられ組の大和のクセに」
「お、俺は会長に頼まれただけだ!」
俺と生徒会補佐である大和がいるのは、校門の横にある特設テントだ。『受付』と掲げられたそこに長机をひとつ置いて、来校者へチラシを配ったり案内係みたいなことをしている。
雨対策で設置されたテントの中は湿気がムンムン籠もってて、もう最悪なのだ。
今は昼過ぎで、ほとんど人は来ない。しかし何かあったときのために係員がいないとダメなんだそうだ。
俺はパイプ椅子に座って、この湿気と戦っている。まぁ、できることといえば、うちわでパタパタと扇ぐくらいだが。
ちなみにこのうちわは、むっちゃんからのささやかな差し入れである。できる後輩だ。
しかし俺を悩ます、ある意味一番の問題は横にいる色黒男だ。
大和はデカい図体を窮屈そうに縮めて椅子に座ってる。背筋もピンと伸ばしていて、常に気を張ってるようだ。
ぶっちゃけ俺はこの男と、ほとんど会話したことはない。
なので、ものすごーく気まずいのだ。
「久世ちゃんがよかった。久世ちゃんがよかった。久世ちゃんが――」
「聞こえてるぞ」
「てゆーか、風紀と生徒会が一緒っておかしくない?」
「会長の判断だ」
「だったらさー、振り分けとか考えてほしいよな」
俺がため息を吐くと、大和は眉をひそめた。
「もう諦めろ、和樹」
「久世ちゃんとてっちゃんは一緒だろ? 俺と大和はほぼ初対面だし、一緒にお仕事しづらいと思うんだよねー」
「……まぁ、アイツらはセットだろうな」
「どーゆー意味?」
俺が尋ねると、大和は知らないのかと大げさに驚いた。
「風雅と哲也は付き合ってるぞ」
「……ふーん」
正直驚いた。でも俺のリアクションは薄い。付き合ってると言われてみれば納得できるし、あのふたりは仲良しだから特に何とも思わない。
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