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6月 和樹、恋バナをする
「驚かないのか?」
「何が?」
「いや、その……男同士だし」
大和はわずかに顔を赤らめた。彼はそうゆう話に関して奥手らしい。俺もその手の話はちょっと苦手だが……。
大和は俺の目を見て続けた。
「和樹は偏見とかねぇの?」
偏見ねぇ。今までそんなの考えたこともなかった。
「別にいいんじゃねーの?」
「……そうなのか?」
「俺には関係ないし」
てか何で俺は大和とこんなに喋ってるんだ。自称人見知りの俺すげーな。やっぱり恋バナは万国共通だ。
「……和樹はさ」
「は?」
何だよ改まって。てきとーに聞き流そうと思ってたが、大和の顔は真剣だった。
「いや、和樹って、どんなヤツがタイプなのかなーって」
「タイプねぇ……」
俺は顎に手を当てて考えてみる。
そりゃガキの頃は、瞳が大きい子とか髪サラサラの子とかあったけど、今は特にない。
しいて言うなら……。
「俺のこと好きになってくれる人かな……」
「そうなんだ」
「そう言う大和はどーなんだよ。彼女とかいねぇの?」
「俺はフリーだよ。ちょっと前にフラれた」
「フラれた?」
こんなとき、つい俺はグイグイ聞いてしまう。恋バナは久しぶりだから楽しくなってきたのだ。
「重すぎるんだってさ……」
「勝手だな、そいつ」
「だろ? 俺はただ好きなだけなのに……」
「まー元気出せって!」
俺はしょぼくれた大和の背中をバンバン叩く。昔、誰かから教わった喝の入れ方だ。
「大和なら絶対彼女できるさ」
「……和樹は彼女いねぇの?」
「年齢イコールってやつだよ」
そう、俺に彼女ができたことはない。
もちろん好きな子はいたけど、何となくダチとワイワイやってる方が俺は好きなんだ。
「へー」
「つまんないだろ俺」
「いや、そんなことないよ」
「はーあ、腹減ったなー」
休憩時間まであとちょっと。俺らがご飯食べてる間だけ、2Cの風紀委員のイタミンこと伊丹が来るはずだ。
「和樹は昼どうする?」
「うちの寮のやつ食べるよ。売り上げに貢献しなきゃだしね。それに千葉のヤツが、真面目に働いてるとこ見てやらないと」
あの様子を思い出したら笑えてきた。
B寮はカレーを出すのだが、千葉は例の会議の結果、調理担当になったらしい。
もちろん他の生徒もいるんだが、実行委員の千葉がリーダーになったそうだ。
俺はヤツが毎晩こっそり食堂で練習してたのを知っている。他でもない料理長・平ちゃんこと白石平輔 からの情報だ。
「陽平と和樹って仲良いんだ」
「一応、同室者だしね」
「和樹が? じゃあ帽子の下も……」
「初日に見ちゃってね、それ。あれ? てか何で大和知ってるの?」
千葉の秘密を知ってるヤツは、ほぼいないと思ってた。
多分てっちゃんや久世ちゃんは、知らないんじゃないかな。
大和は昔を懐かしむように続けた。
「俺、一年のとき、陽平と同室だったんだ」
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