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6月 あやしいお客様

 食品バザーは食堂の前にグループごとにテントを張って、そこで料理を提供する。  テントから出る千葉を見送ってから、睦月は仕事に戻った。 「和樹さん来なかったな。忙しいのかな」  千葉をきっかけに知り合ったひとつ上の先輩の和樹は、とても良い人だ。どこで会っても、気さくに声をかけてくれる。  千葉も日を追うごとに、話しやすくなっている。  ふたりの良い先輩と巡り会えて睦月は幸せだ。 「すみません」 「はい、どうぞ!」  どうやらお客さんが来ていたらしい。睦月はすぐに対応にあたった。 「ここって、B寮で合ってる?」 「え……あ、はい、そうです!」  不思議なことを聞く人だ。  見ると彼は一般の人で、男の自分から見ても可愛らしい顔をしていた。背は自分よりも高い。フード付きのパーカーをラフに着こなしている。 「じゃあ、和樹いるかな?」 「和樹さんのお知り合いですか?」 「僕ら中学の時の同級生なんだ」  どうやらこの人は客ではないらしい。大方冷やかしだろうと睦月は思った。 「あの、和樹さんにどういったご用件で……」 「ああ、そうだ。君に伝言を頼みたいんだけど、いいかな?」 「わざわざ人を介してですか?」 「あいつケータイ無精だからね。まったく連絡がつかないんだよ。ダメ?」 「……それくらいなら。何と伝えればいいですか?」  睦月が了解すると、目の前の男の口角が吊り上がる。 「『ビオトープで待ってる』って伝えて。よろしく」  そう言い残すと、彼は踵を返した。 「あ、待ってください! あなたのお名前は?」  睦月が呼び止めると、男は振り返って言った。 「カナタって言えば、わかると思うよ。じゃあね」  そう言ってカナタという男は帰ってしまった。  睦月は迷った。不思議な客と和樹の関係はわからない。  彼は同級生だと言ったが、それが真実であるかは確かめようがない。  でも、あの人が本当に和樹と待ち合わせるなら、伝えないといけない。  何もしないで和樹を困らせるようなことは、絶対にできなかった。  睦月は自分の休憩時間に、和樹に伝えに行こうと決めた。

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