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6月 千葉の過去

「大和が千葉の元同室者? じゃあ、千葉って一年の時はCクラスだったんだ」 「それも知らなかったのか?」 「なるほどね。だから深月センパイと知り合いだし、委員長や辰兄とも話すんだ」  直接見たわけじゃないが、俺は人づてに、千葉が風紀の先輩たちと関わってるって聞いていた。 「ちなみにアイツ、陸上部で短距離走の選手だったんだ」 「千葉が陸上? なーんかイメージがない」  俺は頭の中で、千葉が陸上のユニフォームを着て、全力疾走してる姿を思い描く。何だかしっくりこない。  何となく千葉に『全力』って言葉が、似合わない気がするのだ。 「でもアイツ、今はBクラスだろ? 陸上も辞めちまったのか?」  千葉がコース変更組とは知ってたが、てっきり文理からだと思ってた。アイツ地味に頭良いし。  俺がそう聞くと、大和は苦しそうな顔をして答えた。 「陽平はもう以前のように走れない。それ以上は……俺から話すことはできない」 「……アイツの傷痕と関係あるのか?」 「悪い、和樹。これ以上は本当に話せないんだ。それにアイツも望んでないだろう」 「……」  千葉の左のこめかみから頭の方へ走る傷痕。  出会ったその日に偶然とはいえ、俺はそれを見てしまった。  あのときの何とも言えない気持ちを、今でも忘れられない。俺は自分を責めた。でも次の日千葉は、またその傷を見せてくれた。それからも部屋にいるときは、ニット帽を被らない日も増えてきてる。  自分で言うのはおかしいけど、俺と千葉の間の壁は、少しずつ取り払われているはずだ。  だから俺は――。 「やっぱり俺は、千葉が話してくれるまで待つよ」 「……え?」 「昔の事情なんて知らないし、それ以前にヤツがCクラスだったのも知らなかったんだ。はっきり言って部外者だよ」  あまり人と関わろうとしなかった同室者を思い浮かべる。俺たちは互いの距離感を保って、これまで過ごしてきたはずだ。 「それでもヤツが苦しんで、どーにもならなかったときには……やっぱり俺、そばにいてやりたいんだ。壁一枚隔てたとしてもね」 「和樹……」 「それに俺、一応千葉の同室者だし」  苦い顔をしてる大和とは対称に、俺は笑ってみせた。

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