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6月 カナタ
「和樹さん!」
千葉の話が終わって一息吐いてたら、突然むっちゃんが現れた。
「お疲れ、むっちゃん。あ、うちわ助かったよ。ありがと」
余程急いできたのか、むっちゃんはエプロンを身に着けたままである。
「あの、和樹さんに伝言を頼まれていまして……」
「伝言?」
俺が聞くとむっちゃんはチラッと大和を見た。彼には聞かれたくない話らしい。
それを察した大和はイタミンを呼びに行くと言って、テントを出て行った。
「むっちゃん、伝言って何?」
「それが、和樹さんの昔のお知り合いだという男の人が『ビオトープで待っている』と伝えてくれって、僕に頼んだんです」
「ビオトープ……?」
何だろ。どっかで聞いたことがあるような、ないような……。
「その人って、どんな人だった? 名前とか聞いてる?」
「えーっと、背は和樹さんくらいで……整った目鼻立ちをしていました。僕が言うのも変ですが、とても可愛らしい顔つきです」
豆柴のむっちゃんが可愛いって言うなんて、どんな男だよ。
万年ヒラ顔の俺に対するイヤミか。
むっちゃんの説明は続く。
「彼は一般のお客さまのようで……服装はフード付きのパーカーにTシャツといった、ラフな格好だったと思います」
む、むっちゃんの記憶力すげぇ!
って感心してる場合か俺?
うーん、もうちょいで何か思い出せそうなんだよな……。
「あ、名前は?」
「『カナタ』って言えばわかると言っていました」
「……カナタ」
ああ、そうだ。
むっちゃんから名前を告げられて、ようやく思い出した。
俺はすっかり忘れてたのに、アイツはまだ……。
「和樹さん……」
「ありがとな、むっちゃん。俺ちょっと抜けるから、昼食いに行けなくてゴメンって、千葉に謝っといて! じゃあ!」
「和樹さん!」
最後にむっちゃんに微笑んで、俺はテントを飛び出し、ビオトープへと向かった。
ポツポツと雨が降ってきたような気がした。
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