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6月 千葉、怒る
和樹の元へ向かう千葉は、途中で大和に出会った。この男は確か和樹と同じ仕事だったはずだ。
「瀬川は?」
大和がここにいるということは、和樹も休憩時間に入ったのだろうと思った。
大和は千葉の手にあるふたり分のカレーに目をやると、意味深長な笑みを浮かべた。
「まだテントにいるはずだ。さっきアイツの後輩が来てな。大事な話をするようだから、俺は先に抜けたんだ。それ昼飯か?」
「ああ」
カレーが温かいうちに、早く届けてやりたかった。
空腹時のアイツは顔には出さないが、機嫌が悪くなる。これが少々面倒くさいのだ。
ポツポツと小雨も降ってきたし、早くテントに向かいたい。だがそんな千葉を、大和が引き留めた。
「なぁ陽平。お前、和樹にあのこと話したのか?」
「別に関係ないだろ」
「でもアイツは気にしていた。事情を話してやってもいいんじゃないか?」
千葉の表情がなくなる。今日みたいな天気の日には、触れられたくはない話だった。
だが大和は、黙りこんだ千葉に気づかず話を続ける。
「和樹はお前のことが心配なんだ。少しは気にかけてやれよ。同室者だからこそ、話せることもあるんじゃないのか?」
「しつこいぞ、藤田」
「俺とお前の仲じゃねぇか」
「黙れ!」
千葉は声を荒げた。
大和は思わず怯んだ。千葉が大声を出すこと自体滅多にないのに、その怒りが他でもない自分に向けられたからだ。
「……お前はもうアイツに関わるな」
千葉はその場から逃げるように立ち去った。大和は追いかけてこなかった。
雨が少し強くなったような気がして、千葉は顔を上げた。
黒い雲が空を覆っている。これから本降りになりそうな空だった。
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