86 / 118

6月 大和の怒り

 遠ざかる背中を見ても、大和は声をかけられなかった。  久し振りに千葉と話す機会を得たことに心が浮き立ち、つい余計なことまで言ってしまった。  いや、それだけじゃない。さっき見た和樹の顔が頭から離れなくて、思わず千葉に当たってしまったのだ。 「……和樹」  元同室者として、大和は千葉のことを誰よりも理解していると自負していた。  だが、それは勝手な思いこみだった。大和の悪い癖である。  一年間一緒に過ごした自分よりも、まだ三ヶ月も経っていない和樹の方が、千葉との距離が近いと感じた。 「くそっ……!」  何故かこみ上げてくるやり場のない怒りに、大和は戸惑った。ギシリと下唇を噛み締める。  ポツポツと降る雨が大和の肩に当たる。このままだと本降りになるだろう。  テントで待つ和樹は、傘を持っていなかったはずだ。  そう思い立った大和は校舎に向かい、自分の傘と教室にある折り畳み傘を取りに行った。

ともだちにシェアしよう!