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6月 和樹、満身創痍
「ぶはっ! げほっ……げほっ!」
ビオトープの深さは三十センチメートルくらいしかない。それが幸いして、俺は溺れずに済んだ。
身体を起こしてビオトープから抜け出したとき、すでに奏太はいなかった。
雨で濡れた身体はトドメとばかりに、汚れた水を全身に浴びて、すっかり冷え切ってしまった。
「はは……俺ぜってー風邪引くわ……」
雨はまだ降り続ける。
これ以上、俺を苦しめて何が楽しいんだよ。
もう新歓とかどーでもいい。すぐに寮に帰って、汚れた身体を洗い流して暖まりたかった。
満身創痍の身体を引きずって、ビオトープの林を抜けた俺は、寮へと続く道をトボトボと歩いた。
何も考えないようにと思って歩くが、どうしても奏太の声が頭に響く。
でも何度考えても、アイツが言ってる意味がわからなかった。
「……俺が何したって言うんだよ」
心の底から絞り出した呟きは、雨音に紛れてかき消された。
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