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6月 小さな嘘、大きな後悔
新入生歓迎会が終わっても、和樹は戻って来なかった。
大和が和樹のことを知ったのは、生徒会室に戻った後だった。
「和樹が保健室に運ばれたって、どういうことですか?」
大和は生徒会書記の翼に呼び出され、そう告げられた。
信じられなかった。
和樹と一日過ごしていても、彼の体調が悪かったと思えなかったからだ。この雨のせいで体調を崩したのだろうか。最後に別れた後、何があったのだろう。
悶々と考えこむ大和に、翼は淡々とした口調で答えた。
「詳しく聞いていないが、どうやら池に落ちたらしい」
「池……?」
「高熱を出したものの、大事には至らなかった。千葉が見つけていなければ、危なかったそうだ」
「陽平が?」
大和は自分のついた小さな嘘を、今になって後悔した。
もし隼人が来たときに正直に言っていたら、和樹の身が危険にさらされることはなかったかもしれない。
もし千葉が和樹の元へ向かうタイミングが、少しでもズレていたら。
「藤田」
落ちこんだ意識を呼び戻したのは、翼の冷たい声だった。
「なぜ黙っていた?」
「……何のことでしょうか」
「まあいい。早く仕事に戻れ」
「……はい」
翼が何を知っているのかはわからない。ただ大和は得体の知れないこの先輩が苦手だった。
「……それと」
「まだ何か?」
大和は無理に笑顔を作って答えた。
「今日はもう瀬川に近づくな」
「わかってますよ」
どうして和樹はこんなにも心配されるのだろう。それは嫉妬にも似た感情だった。
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