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6月 和樹と深月センパイと黒猫
「そりゃあ災難だったな、瀬川」
「笑いごとじゃないですよ、深月センパイ」
あれから約一週間。なかなか熱が引かず苦しんでいた俺だが何とか回復し、今はこうして裏庭のベンチでだべっている。
ちなみに深月センパイは膝の上にこてつを抱え、喉をくすぐっている。どうやらこの人もにゃんこ好きのようで、久世ちゃんと組んでいるにゃんこ同盟の話を聞きつけて、自ら入りたいと志願してきた。
なんやかんやで話しやすい深月センパイのことはけっこー好きだ。
「でもま、お前が無事でよかったよ。聞いたぞ。千葉に助けられたらしいな」
「そーっスね。もう本当千葉さまさまって感じ」
「ははっ! そうだな。俺も千葉の成長話を聞けて嬉しいよ」
「何か保護者みたいっスね」
「ま、そんなもんだな」
深月センパイはこてつを高い高いしながらそう言った。
てか、こてつのヤツだっこ嫌いなはずなのに。やっぱりイケメンは得なのか?
「そういえば……」
俺はちょうどいい機会だから、深月センパイに昔の千葉のことを聞こうとした。
だが突然、センパイが「あっ!」と声を上げてベンチから立ち上がった。それに驚いたこてつは、そのまま走って逃げてしまった。
「どーしたんスか?」
「いた!」
「?」
深月センパイは一目散にある場所目がけて走り出した。そこは以前こてつを見つけた、あの茂みで。気になった俺はセンパイの後を追いかけた。
そして、そこで目にしたものを見て、俺は思わず声を上げた。
「あっ!」
そこにいたのはスラっとした身体つきの、真っ黒なクロネコだった。
「かわいい~! めっちゃイケメンだね、君は!」
俺が視線を合わせて声をかけると、クロネコはにゃ~んと元気な声で鳴いた。
「俺のKUROこんな所にいたのかよ。心配したんだからな」
「俺のって……あ!」
「思い出したか?」
深月センパイはへへっと得意げに笑った。
そうだ、この子は初めて深月センパイと会ったときに、センパイが探してたにゃんこに違いない。
「へー見つかって良かったっスね、センパイ」
「ありがとな、瀬川!」
「てか、この子のこと学校は知ってます?」
「心配ない! 校長に直訴したから」
「……校長って何者スか」
こてつ騒ぎのときもそうだけど、時々出てくる校長の存在がいまいち謎である。
「じゃー俺行きますわ。次、体育なんで」
「ああ。遅刻すんじゃねーぞ」
「その言葉そっくりそのまま返しますよ、センパイ」
俺は深月センパイにそう返して裏庭を後にした。
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